私はただの人間だ。ちゃんと身体もあって、飲み喰いもすれば、服も着る。ただ透明なんだ。分かるかね。簡単さ、透明なんだよ。
(『透明人間』H・G・ウエルズ より)
ドラミちゃんの秘密道具
『ドラえもん』に出てくる秘密道具の中に「透明人間になる目薬」というものがあります(正確にはドラミちゃんの道具。てんとう虫コミックス8巻)。その目薬をさすと身体が透明になるんですよ。
子供の頃に読んだとき、これすごく欲しかったんです。目的は映画館へ忍び込んで最新映画を見ること。子供のお小遣いではそれほどたくさんの映画を見られなかったからです。
私は授業中に「透明人間になったらどうするか」と真剣に考えて、ぼんやり想像の世界に入り込んでいるような子供でした。今もあまり成長していませんが。
透明人間をテーマにした映画
1897年に書かれたSFの『透明人間』が有名ですが、少し前にも『インビジブル』という透明人間をテーマとした映画が公開されましたね。透明になりたいというのは子供だけではなく、たくさんの人が願ってきた夢です。誰ですか? 透明になって女子更衣室を覗きたいなんて言ってる人は?
第一の難問「ヘモグロビン」
でも実際に透明人間になるのはかなり難しそうです。『ドラえもん』の中では「目の中にある透明な水晶体のように身体を水晶体化すればいい」と説明していますが、一番のネックは血液中にあるヘモグロビンなんです。ヘモグロビンは血液を赤くしている要因ですが、これが透明になるとどうなるのでしょう?
ヘモグロビンの中には鉄が含まれているのですが、これを透明にしてしまうと酸素と結びついて身体に酸素を運ぶということができなくなってしまいます。これでは窒息してしまいますよね。これがクリアできてもまだ難問はあります。
第二の難問「食物」
それは食物。身体は透明になっても、食べた物までは透明化しませんよね。よって透明人間が歩いていると、未消化の食べ物が空中に浮かんでいて、それが徐々に消化される様子が丸見えです。これはかなり気持ち悪い!
第三の難問「視覚」
それから視覚。水晶体は目から入ってきた光を網膜というスクリーンに映すレンズの役目をするんです。身体全部が透明になってしまったら網膜も透明になってしまって目から入った映像が映りません。つまり透明人間は目が見えないんです。これでは映画館に入っても映画が見られないじゃないですか!
SFの「光学迷彩」が現実に!
しかし、先日NHKスペシャルを見ていたところ、ある新兵器が紹介されていました。それはアメリカ国防総省・ペンタゴンが開発している「光学迷彩(ステルス迷彩)」です。
士郎正宗の漫画『攻殻機動隊』やプレステ2の『メタルギア・ソリッド』に出てくる、身体を透明に見せかける秘密兵器です。アニメやSFでおなじみの道具がドキュメンタリーに登場したので、オタクの私はテレビの前で小躍りしました。
光学迷彩の原理
この原理は「身体に隠れる後ろの風景を服の上に投影する」というものです。光ファイバーや受発光ビーズを使って、リアルタイムに背景を服の上に映し出してやればよいのです。後ろの風景が服に映し出されていれば、背景にとけ込んだようになって姿が見えなくなりますよね。後ろの風景をデジタルに高速処理し、それを高解像度で投影する技術が必要なのですが、これも実用化するのは時間の問題といえます。
いえ、実はすでに軍事レベルで実践で使われているという噂もあるのです。でも一般人も手にはいるようになったら犯罪に使われて社会が大混乱してしまうかもしれませんね。
いつの時代も倫理や法律の問題よりもはるかに早く科学技術が進んでしまうようです。『ドラえもん』が登場する未来には解決しているといいですね。
参考文献
『透明人間』H・G・ウエルズ・宇野 利泰訳
それにしても、H・G・ウエルズって本当にすごいですね。『モロー博士の島』『タイム・マシン』『透明人間』『星の戦争(オーソン・ウェルズの『火星人来襲 』)』などなど、どれも傑作揃いです。古き良きSFはいかが?
光学迷彩 ※リンク切れ
頑張れ東大生!光学迷彩の研究進む。
このブログは2001年07月23日開設のサイト「幻想画廊」を2019年にWordpressで移築したものです。この記事は20年前の、2002年10月01日(火)に書かれました。文章の内容を変えずにそのまま転載してあります。リンク切れなど不備もありますが、どうぞご了承くださいませ。