ある朝、私が地下室におりていくと、オムの樹は首を揺すりながら眼を少し開いた。まだ眼の見えないケモノが、初めて太陽の光を見たときのような、不確かな眼差しだ。
(『あやかしの樹』阿刀田 高 より)
お葬式
先日親戚の女性が亡くなり葬儀に出席しました。90歳をすぎていたので大往生でした。小さなおばあちゃんでしたが、30センチ四方の壺に入ってしまってさらに小さくなったのを見ると、胸が詰まるような、寂しい気持ちになりました。でも海が見える静かで美しい場所にお墓があるので、きっとのんびり眠れるんじゃないかな。
もし私が死んだら
私は学生の時から財布に「臓器移植提供意思カード」を入れて持ち歩いています。脳死の場合も心停止の場合も、提供できる臓器に全て○をつけています。別にご大層な理由はなくて、リサイクルできるものはリサイクルしたほうがいいというだけです。
火葬にして灰になってしまうと何も残らないけど、臓器が誰かのお役に立って細胞として生きていると思えば遺族の寂しさも半減するかなあと思って。ただ病死かも知れませんし、上手く綺麗な臓器が取り出せる状態で死ねるとは限りませんが。
献体はどうしようかなあ……
また「献体」も考えたのですが、以前医学部に行った友達と話をした時にやめようと思いました。彼曰く「そりゃあ、献体してくださる方にはとても感謝するんだけど、人間だからね。不謹慎なのはごもっともだけど、ご老人よりも若い女性に当たった班はラッキーだなと思うよ」
ラッキー……か。気持ちは分かるものの、今死んだとしても年取って死んだとしても「献体」はやめとこうかなと思ったのであります。
イギリスのアイデア埋葬法
イギリスでは土葬した遺体の上に木を植えるのが流行っているそうですよ。流行っているというのも変だけど。民間団体のナチュラルデス・センター(The Natural Death Centre)では、環境保護の立場から棺を紙で作ったり、墓石代わりに木を植えたりという活動をしているんです。「自然にやさしい埋葬」ですね。いかにも散歩と公園が大好きなイギリス人らしい発想です。
人が亡くなるたびに木が増えていくというのはなかなかいいアイデアですね。「これが亡くなったおばあちゃんの木だよ」なんてお参りの時に故人をしのんだりしやすいですし。私も死んだらぜひイギリス式でやってもらいたいものです。
虫? 植物? 不思議な「冬虫夏草」
それで思い出したのが「冬虫夏草(とうちゅうかそう)」。漢方薬として有名ですがご存じですか?
冬虫夏草はキノコの仲間です。見た目はセミやガ、芋虫などからキノコが生えている、奇妙な形をしています。この外見から、中国では冬は虫の姿で夏は草になる不思議な生物と信じられていました。薬膳としてスープにして飲んだりするんですよ。非常に珍しいので昔は不老長寿の薬として中国の皇帝が食べる、満漢全席(まんかんぜんせき)のメニューにも載っていました。
このキノコは虫の死体に生えるのではなく、虫が生きているうちに寄生して虫の体の栄養で成長します。冬虫夏草というのは昆虫に寄生する特殊なキノコの総称で、寄生する虫の種類、キノコの種類によって色や形も様々なんです。
桜の木の下には
あまりにも有名な「桜の木の下には死体が埋まっている」というフレーズも、不気味でありながらどことなく甘美な響きがあります。人の身体を養分にして咲く冬虫夏草もひょっとしたら桜のように美しいかもしれません。
そんな幻の冬虫夏草を想像しながら、墓石がずらりと並んだ寂しい墓地よりも、緑美しい公園の墓地に眠りたいと思いました。
参考文献
『冷蔵庫より愛をこめて』阿刀田 高
ショートショートの名手・阿刀田高の出世作。『あやかしの樹』は、美女の死体を養分にして成長する、不思議な樹木を手に入れた男をブラックユーモアで描いています。その結末にはにやりとせずにはいられません。
After Life (English) ※リンク切れ
とても美しい墓地の風景が、動く画像で楽しめます。オススメは「Summer」。センチメンタルです。
このブログは2001年07月23日開設のサイト「幻想画廊」を2019年にWordpressで移築したものです。この記事は20年前の、2002年12月10日(火)に書かれました。文章の内容を変えずにそのまま転載してあります。リンク切れなど不備もありますが、どうぞご了承くださいませ。