キャリー・ホワイトはその罪の故に焼かれている。
(『キャリー』スティーヴン・キング より)
子供の頃、怖かったことって何ですか?
この間友人と、子どもの頃どんなことが怖かったかという話をしたんですね。「田舎のおばあさんの家のトイレが家の外にあるくみ取り式で、手が出てきたらどうしようと思った」とか、「UFOに誘拐されて解剖されたらと考えると怖かった」とか、そんな話。子どもの頃の恐怖ってちょっと笑えます。
私が怖かったのは「死んだと思われて火葬場へ運ばれて、窯の中で息をふきかえすこと」です。ううっ。そんな最悪のタイミングで生き還りたくないよー。
突如人間が燃え上がる不思議現象
ところが火葬場や火事でなくても、人間が燃えてしまうことはあるのです。それは人体発火現象(Spontaneous Human Combustion)です。
1998年8月24日。オーストラリアシドニーでのできごとです。アグネス・フィリップス夫人は娘のジャッキー・パークと買い物に出かけました。その時駐車中の車の助手席で、フィリップス夫人は突然燃え上がりました。通行人や娘の見ている前で夫人は炎に包まれ、1週間後に病院で息を引き取りました。その日の気温は16度。夫人もその娘も喫煙者ではなく、周りには火の気もありませんでした。
1982年ロンドンのエドモントンでは、62歳のジーン・サフィンが父親と義理の兄弟の前で急に燃え始めました。キッチンで燃え上がったジーンはその後病院で亡くなりましたが、検死官も原因がさっぱり分かりませんでした。
人体発火現象の研究家・ラリー・アーノルド
このような人体発火現象を調べている研究家、ラリー・アーノルドの『謎 戦慄の人体発火現象(Ablaze!)』という本では、なんと400件以上もの発火現象が集められています。古くは1852年に、チャールズ・ディケンズが『Bleak House』の中で人体発火現象を扱っているほどなので、案外世界中でよく起こっている現象なのかもしれません。
これらの人体発火現象に共通するのは、火の気が全くないところで人体に火がつき、多くのケースで数分から数十分の間に人体が灰になってしまうことです。
ジョン・デハン博士の実験
カリフォルニア犯罪科学研究所のジョン・デハン博士はブタの死骸を人体に見立てて、どのくらいで燃え尽きるのか実験をしました。その結果、7時間かけても全て灰になることはありませんでした。人体は簡単には燃えないものなのに、数分で灰になるというのは不思議です。
燃えるのは人体のみで、周りの部屋などは全く燃えた形跡がないというケースも多いようです。靴を履いた足のみが切り取られたように残っていたということもありました。
人体発火現象の原因
ではいったい原因は何なのでしょうか? 体内に蓄積されたアルコールに発火したという説、すさまじい静電気の発生が原因という説、電磁波説、人体ロウソク化説、プラズマ説──など様々な説があります。
現在のところ最も有効な説は、低温火災説とジフォスフィン発火説です。低温火災説はじわりじわりと人体を炭化させるので、最終的に粉々になった灰のみになるらしいのです。ただしこの説では燃えるのに非常に時間がかかったり、酸素の少ない場所でなければならないという条件があります。
ジフォスフィン発火説は体内で食物を消化する際に作られたリン化合物のジフォスフィンが燃えるという説です。ジフォスフィンは非常に可燃性の高いガスのため、体内の水素などと化合して火がついてしまう可能性があるというのです。しかしジフォスフィンが生成される可能性が非常に低いので、原因の決定打にはなっていません。
燃え上がるのを防ぐには?
結局人体発火現象を科学的に解明することは難しいようです。私たちにできることは、どうぞいきなり燃えませんようにと祈ることと、ユニクロのフリースを着て火に近づかないというぐらいでしょうか

参考文献
『キャリー』スティーヴン・キング
ホラーの大御所スティーブン・キングの処女長編作品です。暗い炎と少女のイメージといったらこれ。狂信的な母親と共に暮らす、内向的で変わり者の少女キャリー。クラスメートの度を超した悪意あるいたずらに彼女の怒りと哀しみが爆発し、街は炎と恐怖に包まれる。内臓にじわじわくるホラーです。
このブログは2001年07月23日開設のサイト「幻想画廊」を2019年にWordpressで移築したものです。この記事は18年前の、2002年06月11日(火)に書かれました。文章の内容を変えずにそのまま転載してあります。他サイトの画像は2019年の外部リンクの画像に置き換えました。リンク切れなど不備もありますが、どうぞご了承くださいませ。