迷いながら 間違いながら
歩いていく その姿が正しいんだ
君が立つ 地面は ホラ
360度 全て 道なんだ
Stage of the ground(『Stage of the ground』BUMP OF CHICKEN より)
シャム双生児のダンスショウ
サイドショウのトリを飾るのはシャム双生児、双子の姉妹マリアと・リサです。リサがタバコを吸えば、マリアが煙を吐き出す。一心同体ですね。いや一身同肺かな。今回はサイドショウシリーズ3部作の最終回です。
小学校の時の思い出
小学生のある時期をアメリカですごしました。オハイオ州の田舎町でした。みんな優しく接してくれましたが、時々言い表せない違和感を覚えました。
ある日社会の時間に日本のことを紹介することになりました。私が教壇に立つと先生は黒板に世界地図を貼りました。地図を見て驚きました。
真ん中にあるはずの日本列島がなく、中央にでかでかと印刷されていたのはアメリカ大陸だったのです。当然です。アメリカの社会の授業なのだから。でもそんな配置の地図を生まれて初めて見たのでびっくりしてしまったのです。
ニッポンとアメリカ
日本はアメリカのはるか東のはしっこに小さく載っていました。それは世界の果てのちっぽけな島でした。その時初めて違和感の正体を知りました。
私にとって日本はアメリカと肩を並べる先進国でしたが、彼らにとっては「地の果ての遅れている国」だったのです。そして私は「チャイナだか、コリアだか、その辺のアジアの小国」から来た少女でした。バブル前の日本の経済状況、行ったところが田舎町──ということもあったでしょう。
自由研究発表の日、私は教壇に立ち、自分の住んでいた街がいかに大きいか、たくさんのビルが並び、車があふれ、この町よりもずっと都会なのかを必死で説明しようとしました。でも結局上手く理解してもらうことはできませんでした。
一番ショックだったのは、何人かのアメリカ人が私を同情の目で見ていたことでした。
ダンサー時代の苦い経験
またアルバイトでダンサーをしていた時のこと。アルゼンチンから来た男性と会う機会がありました。何気なく
「日本の裏側から、長旅は大変だったでしょう?」
と話しかけました。彼は少し黙ってから
「私は日本が『裏側』だと思っていたよ」
と微笑みました。私は真っ赤になって返す言葉がありませんでした。そして笑顔で返してくれた彼に感謝しました。
三角か四角か
差別、偏見、戦争──これらはなぜ存在するのでしょうか? 私は主に2つの理由があると考えます。最初の理由はお互いが自分の立っている位置を「世界の中心であり、絶対のものだ」と無意識に思いこむことだと考えています。その位置はその人の経験、知識、習慣、宗教観、環境などによって作られます。
例えば下の図を見てください。
Aの地点に立っている人はこれを「三角形」だと言い、Bの人は「四角形」だと言うでしょう。もし二人が全く動かずにいたら、「三角だ!」「四角だ!」と、いつまでも言い合いは終わりません。
でも、ほんの数歩でいいから別の場所へ歩いて眺めてみれば、「なるほどそっちからは三角に(四角に)見えていたんだね」と気づくことができるのです。
想像する力
差別は受けた人にしか分からないのでしょうか? そんなことはありません。相手の視点を持てば、体験はしなくてもその人の気持ちを想像することはできます。他人の痛みで泣くことができる動物は人間だけだからです。
でも言うはやすしですね。最初に書いたような体験をして、私は勝手に人を哀れんではいけないことや、思いこみが時に人を傷つけることを思い知ったはずです。なのにその後何度も不注意な発言をしてしまったり、恥をかいたり、失敗したりしました。これからもまたきっとやってしまうでしょう。でも一つずつ直していきたいのです。
もう一つの方法
想像力を駆使して別の視点から見るというのはなかなか難しいことです。そこで私が気をつけている別の方法があります。それは差別の起こる2番目の理由「情報の欠如」を改善することです。
新聞が、テレビが、△△さんが言っているから──と少ない情報を鵜呑みにしてはいけません。図を見てください。
他の人にとってその対象はどう見えるのか、たくさんの情報、意見を集めれば、より多くの視点が持てます。結局はよく分からないかもしれない。正解はないのかもしれない。でも独りよがりの判断を防ぐことができるはずです。
立つ位置を変える勇気
みなさん、私が「幻想画廊」で書いていることも「本当にそうかな?」と思いながら読んでください。写真や映像が真実の証明にはならないことを「幻想画廊」の読者の方ならよくご存じのはずです。写真は簡単に嘘をつきます。フォトショップがあれば簡単です。
自らの手で情報を集め、思いこんでいることはないか検討し、もし間違っていると気がついたら、いつでも自分の立つ場所から歩き出す勇気を持ちましょう。それが一つでもこの世から差別や争いをなくす第一歩です。
あなたもぜひ芸人になってください
私の言っていることは私の選んだ一意見です。賛成でも反対でもみなさんがどのような意見を持っていても構いません。もし自分の訴えたいことがある場合は、私だけに意見のメールを送るのはもったいない。サイトや掲示板などで、一人でも多くの人に「こんな考えの人間もいるんだよ」と公開しましょう。
世の中にはいろんな意見の人がいて、様々な選択肢があり、誰でも自分の意志でそれを選べるということが本当の自由です。個人が意見や情報を公開することで選択肢は無限に増えていきます。表現の方法は何でもいいのです。文章でも、絵でも、音楽でも、もちろん自分の身体を使って訴えても構いません。
「火吹き(ファイアイータ)」にも書きました。ネットは巨大な見世物小屋で、誰でも芸人になれるのです。ブーイングを受けたり誰も見なかったりというリスクはあります。しかし恐れないでください。真剣に伝えたいことがあり、芸に精進するならば、あなたに拍手してくれる観客は必ずいるはずです。

追記
先週のコラムの内容で、いつも男性にネカマ(男性が女性のふりをすること。ネットオカマ)と疑われてため息をつきたくなると書いたことについて。
ある男性から「コラムやコラージュの他、(マリアの)容姿についてもファンである。そういう思いで見ていて不純で申し訳ない」というメールをいただきました。私は「外見」も「性別」も芸のうちだと考えているので、それらに拍手を贈られるのはとても光栄に思っています。
しかしもし容姿しか評価されないとしたら、私は芸の修行が足りないのでしょう。だからどうか申し訳ないと思わないでください。
私がため息をつきたくなるのは、ネカマ疑惑を持つのは男性ばかりなので、「コラム芸」「コラージュ芸」「コンピュータ芸」というのは男性しかやってはいけないのかなあ?と思うからです。私の書き方が誤解を生んだようで、こちらこそ申し訳ない。
追記2
3週連続コラムに関してたくさんのメールをいただきました。ありがとうございました。上のコラムに書いたように、私はできるだけ公の場に意見を公開した方がいいと考えているため、今回は賛成反対にかかわらずご意見に対する個人的な返信はしておりません。どうぞたくさんの人の目に触れるように、ぜひあなたのご意見をネットに公開してくださいね。
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参考文献
『MOONLIGHT MILE 7』太田垣 康男
精緻な画力、力強いストーリー、その根底に流れる壮大なロマンと哲学。こんな素晴らしいマンガが読める国・ニッポンはなんていい国なんでしょう。特に7巻がオススメ。BUMP OF CHICKENの『Stage of the ground』もあわせてどうぞ。
舞台はイラク戦争やテロ事件以来、イスラムへの敵対心が抜けないアメリカ。あるアラブ人の少年は自作のロケットを宇宙へ飛ばすという夢を持つものの、ロケット制作をテロ行為とみなされ、何度も警察に捕まったり、住民に暴行されたりと人間不信に陥いる。その後彼は同じく差別を受けている華僑の少年、貧しい白人少年と3人で力を合わせてロケットを作る。肌の色、国籍、宗教の違いを超えて、ロケットをは宇宙へ到達するのか?
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韓国のシャム双生児の分離手術について。シャム双生児について詳しく書かれています。
このブログは2001年07月23日開設のサイト「幻想画廊」を2019年にWordpressで移築したものです。この記事は19年前の、2004年02月03日(火)に書かれました。文章の内容を変えずにそのまま転載してあります。リンク切れなど不備もありますが、どうぞご了承くださいませ。