【フェイク】天才贋作者アルチェロ・ドッセナと、完璧なCG女優シモーヌ

贋作者としてあまりに天才的であるがゆえに、なかなか世間がその犯罪を”信じて”くれないというケースが多いようだ。幸いにして、と、いうべきだろうか。それとも、不幸にして、と、いうべきだろうか?

(『騙しの天才』桐生操 より)

「完璧」な女優、シモーヌ

世界を魅了する天才女優シモーヌ。彼女は完璧です。セリフを忘れることも、監督に文句を言うこともありません。完全な美しさと演技力で、シモーヌはハリウッドの大スターに登りつめます。

しかし彼女が完全無欠なのも当たり前。なぜならシモーヌはCGで創られた「バーチャル女優」だからです。

落ち目の映画監督ヴィクター・タランスキィはシモーヌの出演によって、人々の絶賛をあびるようになるのですが……。

ウソだと証明するには?

先日、映画『シモーヌ』を見に行きました。最初についたウソがどんどん大きくなり、世界中を騙すことになってしまった映画監督の悲喜劇を描いています。

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リアルなウソをついてしまうと、後で「あれはウソなんだ」と言っても、なかなか信じてもらえません。ウソを証明するにはどうしたらいいのでしょう? 今回は、この映画監督のように、あまりに素晴らしい作品を作ってしまった天才贋作者アルチェロ・ドッセナのお話です。

ドッセナ少年のいたずら

アルチェロ・ドッセナは1878年にイタリアの貧しい家に生まれました。彼は専門的な美術教育を受けていないのに、子供の頃から素晴らしい彫刻の腕を持っていました。

12歳の時のこと。ドッセナはヴィーナス像を彫り、それを土の中に埋めておきました。それを見つけたクラスメートや先生は、大発見だと大騒ぎ。そこへふらりと現れたドッセナ。「この像は自分が彫ったのだ」と告白しました。当然みんな信じません。

ドッセナはこれも計算のうちでした。隠し持っていたものを見せると、みんなは唖然としました。実はドッセナは完成したヴィーナス像の腕を折ってとっておいたのです。これではみんなも信じるしかありませんね。

しかし彼は自分の非凡さを証明することはできたものの、結局この事件によって学校を退学させられてしまいました。

天才贋作者の本領発揮

その後ドッセナは石工としてイタリア中を転々としました。そしてひょんなことからファッソーリとパラッツィという古美術商と知り合います。彼はドッセナの腕を見込んで、次々と作品を作らせました。

ドッセナはパラッツィらと出会って8年間、ただひたすらに彫像を作り続けました。大理石でもブロンズでも思いのまま。ギリシア、ローマ、ルネサンス、バロック──とどんな時代の作品でも作ることができました。その腕もさることながら、彫像を浸けるとあっというまに数百年の時がたったように変色するという「秘密の液体」を調合できたからです。

ドッセナはすでにある彫刻を真似て贋作を作っていたわけではありません。彼はどんな巨匠の腕も盗むことができました。「ヴェロッキオやドナテッロは、きっとこんな作品を作っていただろう」という架空の名作を作っていたのです。

たくさんの美術館が「ドッセナの新作」を「新発見された巨匠の名作」として買い取りました。どんな鑑定士もニセモノだと見抜くことはできませんでした。

我慢の限界

やがて彼は美術商のファッソーリらと、彫像の代金のことで仲違いします。ファッソーリはドッセナの贋作によって莫大な富を手にしたのですが、ドッセナにはほとんど報酬を払わず、ただ働き同然の扱いをしていたからです。

Madonna and Child, marble sculpture by Alceo Dossena, 1930 / Alceo Dossena – Wikipedia

ドッセナは世間に「自分は贋作者だ」とこれまで作った贋作のことを洗いざらいぶちまけました。しかしあまりに素晴らしい彫像だったため、美術館も他の美術商たちもそれを信じられませんでした。かえってドッセナを嘘つき呼ばわりするほどです。

前代未聞のウソの証明

そして1928年にドッセナは前代未聞の「ウソであることの証明」をしました。彼はカメラの前で彫像を作る一部始終を撮らせたのです。

彼はスケッチもせずにいきなり粘土で女神像を作り始めました。みるみる像ができあがっていくのをカメラマンや専門家が呆然と見つめました。そして粘土像を完成させると、今度は大理石を彫り始めます。その像はどう見ても古代の天才彫刻家の腕による作品にしか見えません。こうしてアルチェロ・ドッセナは誰もが認める贋作者として評判になりました。

しかし世界を騙したバチが当たったのか、彼は数年もするとに世の中から忘れ去られる存在となり、1937年にひっそりと貧民病院で亡くなりました。

彼にとって世間に告白したことは良かったのでしょうか、悪かったのでしょうか?

おやおや、どこかで聞いたような

ところで、『シモーヌ』を見ていたとき、ちょっとどきっとしたんです。どこかで聞いた話だな、と。そう実は私マリア・ガルシアは数人の女性のパーツを合成して作った架空の人物なんです。痩せるのも太るのも、若くなるのも老いるのも、なんでもござれのバーチャルネットアイドルなんですね。

……なあんて、ウソウソ!

時々「本当は男性なんでしょ?」というメールをいただきますが、正真正銘私は「生きて動いている女性」です。これを証明する方法? うーん、これは困った!

参考文献

『騙しの天才』桐生操

『本当は恐ろしいグリム童話』で大ヒットをとばした桐生操が紹介する、世界の天才詐欺師たちの物語。火星人襲来パニック、モナリザ盗難事件、架空の国を作った男など。信じがたいのですが、みなさん実在の人物。

このブログは2001年07月23日開設のサイト「幻想画廊」を2019年にWordpressで移築したものです。この記事は19年前の、2003年09月16日(火)に書かれました。文章の内容を変えずにそのまま転載してあります。リンク切れなど不備もありますが、どうぞご了承くださいませ。

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