現在は彼らのものだが、未来はわたしのものだ
(ニコラ・テスラ より)
カルト宗教団体とスカラー波
最近世間を騒がせている「白装束集団」、みなさんもその異様な姿をニュースでご覧になったことがあるでしょう。彼らが攻撃を受けていると主張するスカラー波は、実は10年ほど前にもニュースで取り上げられたことがあります。
地下鉄サリン事件を引き起こしたオウム真理教もこのスカラー波による超科学器を研究していたのです。今回の騒動を聞いて、私はとても残念な気持ちになりました。
スカラー波はある科学者が主張した「スカラー電磁波重力理論」の概念です。その科学者の名はニコラ・テスラ。今回のコラムでは彼の数奇な人生をご紹介しましょう。
歴史的な大科学者・テスラ
一般的にあまり知られていませんが、ニュートンやパスカル、ガウスなどの科学者同様、テスラはその名を物理学の単位に残しています。「テスラ」は磁界における磁束密度(じそくみつど)を表す単位なのです。
また世界最初の交流発電システム、無線通信技術、高周波変圧器などの画期的な発明をしたのもテスラです。今日私たちが洗濯機や扇風機を使えたり、リモコンでテレビをつけられるのもテスラのおかげと言えば分かりやすいでしょうか。
オカルト信者が支持する悪魔の発明家?
日本ではテスラの名前を知る人はあまりいませんが、カルト宗教などのオカルト信者には熱狂的に支持されています。彼らによると、現代の科学水準をはるかに上回るテスラの発明品の設計図は、現在FBIに押収され極秘に研究されているのだそうです(『Xファイル』そのものですね)。天才科学者でありながら「悪魔の発明家」とも言われるニコラ・テスラとはいったい何者でしょうか?
エジソンの宿命のライバル
テスラは1856年7月9日にクロアチアのセルビア人として生まれました。わずか5歳にして水車を発明した神童でした。28歳でアメリカに渡り発明王・トーマス・エジソンの片腕として働きました。
やがてテスラはエジソンの元で、交流発電システムを完成させます。しかし悲劇は起こりました。彼のボスであるエジソンは直流発電システムを支持し、電気に関する多くの特許権を独占していたのです。テスラは直流式よりも遠距離の送電が可能で、コストも安い交流式の方が優れているとし、エジソンと真っ向から対立しました。
「交流式」と「直流式」の電流戦争
エジソンの一派は交流式が危険であるとして、犬や猫を交流式発電機につなげて感電死させるというえげつないパフォーマンスを各地で催し、テスラを批判しました。一方テスラはテスラ・コイルと言われる高周波発電機を使って100万ボルトの電流を自らの体に流し、バチバチと稲妻を放電するショーを人々に見せました。この電撃ショーは大衆の圧倒的な支持を受けて、テスラは「電気の魔術師」と呼ばれました。
結局この電流戦争はテスラが勝利し、今日交流電力は世界中で利用されています。家庭用のコンセントに供給されているのもこの交流電気です。
「私は地球だって破壊できるのだ!」
しかしテスラは徐々に狂気に取り憑かれていきました。彼はESP(超感覚知覚。いわゆるテレパシーなどの超能力)を信じ、脳を刺激するために有害なX線を頭に照射するなどの奇行に及びました。
そして小型の発振機によって建物を破壊する実験を繰り返しました。彼は新聞記者や友人に「私はエンパイア・ステートビルを数分でがれきの山に変えられる。この地球だって数ヶ月から1、2年かければまっぷたつに割ることができる」と語りました。
彼はラジオ受信機を使って火星からのメッセージを受信したと発表し、アインシュタインの一般相対性理論は間違いだと主張し、惑星間通信を計画し、思考をイメージ化する装置を研究しました。1930年ごろには電波スカラー兵器や超音波銃の発明に熱中するようになりました。
そしてテスラは大衆から、頭のおかしい奇人・マッドサイエンティストと噂されるようになったのです。彼を支持するのは一部のオカルティストだけでした。
晩年のテスラは、ホテル住まいで孤独に過ごしました。彼の唯一の友人はハト。生涯結婚もせず、公園でたくさんのハトたちに覆われて餌をまくのが楽しみだったようです。彼はひっそりと86歳でこの世を去りました。彼は偉大な科学者・発明家でしたが、不遇の天才でもあったのです。
あなたを守るもの
現在、彼のスカラー理論をまともに受け取る科学者はいません。
日本に住む私たちは、武器を持って戦う必要のない平和な世の中に暮らしています。しかし私たちはたくさんの情報が溢れる「情報戦争」に巻き込まれているのです。何か新しいことを知ったとき(そしてこの「幻想画廊」のコラムでさえも)は「本当にそうだろうか?」とまず考えてください。そして様々な立場から書かれた本などを読み、自分の頭で考えてください。
そういった「行動力」や「好奇心」、「知恵」や「知識」が、銃や刀の代わりに本当にあなたを守ってくれるのです。

追記
読者のスージー・サンダンスさんからテスラ・コイルの写真(おおっ、放電してます!)を送っていただきました。ありがとうございました。ドイツ系アメリカ人のご友人の自作だそうです。すごい。
参考文献
『発明超人 ニコラ・テスラ』新戸 雅章
日本語で書かれた数少ない伝記。テスラの信奉者であるオニールやチェニーの研究所を参考にしているため、少しテスラを持ち上げすぎているかもしれません。しかしテスラのドラマチックな人生を知るためには最適な本です。
このブログは2001年07月23日開設のサイト「幻想画廊」を2019年にWordpressで移築したものです。この記事は19年前の、2003年05月20日(火)に書かれました。文章の内容を変えずにそのまま転載してあります。リンク切れなど不備もありますが、どうぞご了承くださいませ。