話をしているあいだ、金森は手を休めず、ハロウィーンのパズルの三千ピースをいくつかの山に分けていました。ジグソーパズルは二千ピースを超えたあたりから複雑さが格段に増す、ピースの仕分けという手順を抜いたのでは完成はおぼつかない、というのです
(『来歴不明の古物を買うことへの警め』雨宮町子 より)
ジグソーパズルブーム
日本では1980年代後半からジグソーパズルブームが起こり、様々な絵や写真のパズルがおもちゃ屋さんに並びました。
もともとはイギリスの地図制作者ジョン・スピルズベリーが、地理を学ばせるために教育目的で作ったのがジグソーパズルの起源です。国境線にそって切り離されたパーツを組み立てることによって、国の場所が覚えられるのですね。「ジグソーパズル」とは「糸のこぎり(=Jigsaw)」で切ることに由来します。
完成させるまでの面白さがあるだけでなく印刷技術や切断技術の向上によって、部屋に飾れるインテリアとしても楽しめるようになりました。最近はブームも落ち着いているものの、昔夢中になって解いたジグソーパズルのことを思い出された方も多いでしょう。
ジグソーパズルを解くコツ
「幻想画廊」の隠しぺージにもジグソーパズルが置いてありますね。この手のパズルを早く解くにはコツがあります。
まずは直線を含むピースだけを箱などによりわけてしまうことです。要するに縁にあたるパズルだけを選んでおくのです。そして同じような色のものを数種類に分けます。ピース数が1000を超すパズルではこの作業は必須です。
ますは四方の縁を組み立ててから、色別のピースに取りかかります。ピースに印刷された絵が細かいものから始めて、だんだん大きい柄(単色で塗られているようなもの)に移ります。
最後の方になると一色で塗られたように見えるものが残りますので、あとは一つ一つ空いている場所の形を照合しながらはめていくしかありません。まとめると、「縁→小さい柄→大きい柄」という順で作業をするのです。
ジグソーパズルというと頭を使うようですが、黙々と単純作業をしなくてはならないので、実は忍耐力と集中力の方が大事なんですね。子どもの教育には非常に優れた学習ツールだと思います。
妹とパズルの競争
私が小学生の時、我が家にもジグソーパズルブームがやってきました。ある日父が持ち帰った200ピースのパズルがきっかけでした。それは宇宙船の中で宇宙飛行士達走り回ったり、宇宙遊泳をして大騒ぎしている様子がみっしりと描かれたイラストのパズルでした。
私は毎日このパズルを完成させては壊し、完成させては壊し──繰り返し楽しみました。そのうち何分でパズルを解けるかをストップウォッチで測って、家族で競争をするようになりました。競争はいつも私がビリ。でも楽しかったんですよね。
家族総出のジグソーパズル
毎日パズルに熱中している私たちを見て、父は別のパズルをプレゼントしてくれました。200ピースでそれだけ楽しめるのならこれはどうだ! と買ってきたのがなんと3000ピースのパズル。絵はダヴィッドの「ナポレオンの戴冠式」でした。
無茶です。完成すると横幅が自分の背丈ほどあるんですから、どこから手をつけて良いのかさっぱり分かりませんでした。
途方に暮れる子ども達を見かねたのか、両親もパズルを手伝ってくれることになりました。家族全員で一つのパズルを作り上げる──暖かい風景、一家団欒ですね!
……とはならず、みんな黙ってひたすらパズルをし続けました。話すことと言えば「あ、これ端っこだ」「顔の描いてあるピースどこ?」ぐらい。家族そろってピースを色別、形別に分類して一つ一つ照合する作業を黙々とし続ける姿は「家内制手工業」状態。
最期のピースはどこに?
それでも数週間でなんとか完成に近づきました。すると不思議なことに、なぜか家族の人数分だけパズルのピースがないのです。じっとりと見つめ合う全員。
そうです。お察しの通り、みんな「最後のピースをはめる栄誉」を勝ち得たいがために、それぞれが1ピースを隠し持っていたのでした。
結局誰が最後の1ピースをはめたのかは覚えていません。ただ子供心に刻まれたのは「うちの両親はたとえ子供だろうが、遊びだろうが、決して容赦しない教育方針なのだなあ」ということでした。
参考文献
『玩具館』井上雅彦・編
井上雅彦が集めた幻想短編集「異形コレクション」から。雨宮町子の『来歴不明の古物を買うことへの警め』はジグソーパズルをモチーフにしたホラーです。古道具屋で買ったジグソーパズルを解くと、恐ろしい出来事が……。ゾクゾクします。
このブログは2001年07月23日開設のサイト「幻想画廊」を2019年にWordpressで移築したものです。この記事は20年前の、2003年01月28日(火)に書かれました。文章の内容を変えずにそのまま転載してあります。リンク切れなど不備もありますが、どうぞご了承くださいませ。