マンドラゴラ(MANDRAKE):学名 Mandragora offcinarum 魔術的植物として、これまでの歴史で筆頭に挙げられる植物である。mandrakeとは、強い男という意味である。
(『媚薬の博物誌』立木 鷹志 より)
人間の夢・媚薬
相手の飲み物に一滴垂らせば、たちまち恋に落ちてしまうという「媚薬」。ルイ十四世の寵愛を欲したポンパドール夫人も江戸の人々のあこがれの遊女たちも、スルタンの世継ぎを産もうと必死だったハーレムの女たちも、古今東西たくさんの人が媚薬を求めてきました。
引き抜くときには要注意!
サテュリオン、マンドラゴラ、龍涎香(りゅうぜんこう)、麝香(じゃこう)、フェロモン──いろんな媚薬がありますし、効果効能も様々。
マンドラゴラは中でも有名な媚薬の材料です。古代ローマ人は性的遊興のためにこれを使ったと言われています。マンドラゴラはナス科の植物で、二股に分かれた多肉質の根を持つことが特徴です。見た目が人間の体に似ているので、不思議な力が宿っていると信じられていました。
マンドラゴラを手に入れるときには注意が必要です。なぜなら引き抜かれるときに世にも恐ろしい叫び声を挙げるため、その声を聞いたものは死んでしまうと言われているのです。昔の人々は耳栓をした後で、根本に結びつけた縄を犬に引かせるという方法でマンドラゴラを引き抜きました。ちょっとワンコが可哀相ですが。
現代の媚薬・脳内物質
現代の媚薬を手に入れるヒントは脳内物質にあります。人が恋に落ちるとき、あるホルモンが脳内に分泌されることが分かっています。それはノルアドレナリンとフェニールエチルアミン。ノルアドレナリンは、恋をしてドキドキした状態で分泌されるホルモン、フェニールエチルアミンは強い快感を引き起こす脳内物質です。
これらは一種の覚醒剤ともいえます。心拍数を上げ脳を活発に働かせて集中力を高めたり、食欲を抑えるなど、恋をしているのと同じ状態にさせるのです。
面白いのは恋をしているからこの脳内物質が分泌されるというよりも、この物質が分泌された時人は「自分は今、恋をしている!」と思いこんでしまうんですね。
愛しいあの人を振り向かせる方法
では恋する相手にこの脳内物質を分泌してもらうにはどうしたらいいのでしょう? それは「相手をドキドキさせればいい」のです。
有名な「吊り橋の実験」のことを聞いたことはありませんか? 絶境にかかる吊り橋の上で異性に告白をすると成功しやすいという心理学の実験です。揺れる吊り橋を怖いと思ってドキドキしているのに、異性が魅力的だからドキドキしているのだと無意識に思ってしまうのです。
山奥の吊り橋に二人きりで旅行できる関係なら、わざわざ告白するまでもないとも言えますが、この心理を応用してみましょう。
不安をあおるのが一番の媚薬?
あこがれの異性に夢中な人は、ちょっと冷たいそぶりをしてください。毎日携帯メールを恋人に何通も送ってしまう人は、一日携帯の電源を切ってみてください。大好きな相手といつも長電話をしてしまう人は、10分ほどで電話を切り上げてください。
相手が「あれ? いつもと違う。どうしたんだろう?」と思えばしめたもの。不安に思ったり緊張したりドキドキし始めるると、脳内にはじわじわと恋の脳内物質が分泌されるのです。
もう少しで手に入りそうなものや自分が手にしていたと思ったものが急になくなると、そのものへの愛着がますます沸いてきませんか? 「手に入らないかも」と不安に思い、相手を追いかけている状態の時、最も恋のホルモンが分泌されるのです。
実行できるかどうかはあなた次第
とは言うものの、頭で分かっていてもなかなか行動に移せないのが人間。特に相手にどっぷりはまっているときは冷静になれません。それにあまりにも冷淡な態度を取りすぎると、相手が追うのに疲れて諦めてしまいます。このさじ加減が難しい! 私もなかなかできないんですよね。現代の媚薬も取り扱いにはくれぐれもご注意を。
参考文献
『媚薬の博物誌』立木 鷹志
古代から現代までの様々な媚薬について、数多くの文献から引用しながら解説しています。シェイクスピア、江戸時代の風俗、魔女学など、媚薬に限らず興味深い歴史の悲喜劇が読めますよ。
このブログは2001年07月23日開設のサイト「幻想画廊」を2019年にWordpressで移築したものです。この記事は21年前の、2002年10月29日(火)に書かれました。文章の内容を変えずにそのまま転載してあります。リンク切れなど不備もありますが、どうぞご了承くださいませ。