やっぱりお姉さんは蛇だわ……おふろにはいっている時、背中にウロコが……
(『楳図かずお こわい本 蛇1』楳図 かずお より)
なぜ蛇は嫌われるのか?
みなさま、蛇はお好きですか?
たぶん嫌いという方が多いと思いますが、「幻想画廊」のお客様の中には「大好き!」というちょっと変わった人もいらっしゃるでしょうね。でもそんな人も、目の前に蛇が突然現れたらぎょっとしてしまうのではないでしょうか?
では、なぜ蛇は嫌われているのでしょうか? 考えられる理由は4つほどあります。
理由1:毒蛇の恐怖
第1の理由は「噛まれると死ぬ」というイメージでしょう。蛇というとハブやマムシなど毒蛇を想像する人も多いですね。でも実際には日本に生息する野生の毒蛇は10種類ほどしかおらず、ほとんどが沖縄諸島に生息しているんです。日本に住む大部分の方は野生の毒蛇を見たことすらないはず。第1の理由はほとんど根拠のない恐怖だと言えます。
理由2:人間とかけ離れているから
第2に、蛇と人間の生物的な距離です。犬や猫などのほ乳類ならまだ分かり合える気がするのですが、は虫類ほど人間から姿かたちがかけ離れてしまうと感情を共有することなどできなさそうです。手も足もなく、くねくねと地面を這う様子は、人間の動作とかなり違っていて親しめないということもあるでしょう。人間は訳の分からないものは怖いという感情を持ちやすいのです。
理由3:宗教的な理由(アニミズム)
第3は宗教的な理由です。自然や動物を崇拝する「アニミズム信仰」は古代の文明においてはポピュラーな宗教でした。特に蛇は世界各地の古代文明で崇拝されていました。ギリシア神話では蛇は母神ヘラのしもべですし、ケクロプスという蛇神もいます。エジプト、インド、中国、日本などの神話にも蛇神はたくさん出てきます。
これは蛇の脱皮に、古代人が新しく生まれ変わるという神秘を重ねて見ていたからです。また蛇の頭の形状が男根に似ていることから、「生命の誕生」の象徴ともされました。この時点では蛇はそれほど嫌われ者ではなかったんですね。
しだいにすたれる蛇信仰
しかしキリスト教が出現し世界に普及するにしたがって、「蛇=邪悪」というイメージが広がってきました。というのもキリスト教では、蛇はアダムとイブに知恵の実を食べるようにそそのかした悪者であり、キリスト教に抵抗する邪教というイメージがあるからなのです。
日本においても渡来してきた新神道、仏教が広まるにつれアニミズム信仰はだんだんすたれていきました。新神道、仏教が広がっていくためには、古代の土着的な神々を悪者に変えていく必要があったからです。現在、新宗教と融合したもの(例えば白蛇をまつった神社など)以外は純粋なアニミズム信仰は衰退してしまいました。第3の理由は蛇を敵対視する宗教観から嫌悪感が生まれたという説です。
理由4:古代の恐怖の記憶
そして第4の理由。約2億5000万年前から、三畳紀、ジュラ紀、白亜紀にかけて、恐竜が約2億年近くも地球を支配していました。約6500万年前恐竜は突然絶滅してしまうわけですが、私たちの遠いご先祖様のほ乳類はこのころに出現したと言われています。当時ほ乳類は恐竜の餌食でした。彼らは毎日恐ろしい恐竜から逃げ回らねばならなかったのです。そんなは虫類に対する恐怖の記憶が、私たちの遺伝子の中に受け継がれたのではないかという説ですね。
「なぜだか分からないけれど、蛇が怖い」と思うのは遠い昔のご先祖様がビクビクと暮らしていた頃の記憶のせいなのかも知れません。
参考文献
『楳図かずお こわい本 蛇1』楳図 かずお
統計によると楳図かずおの『へび女』シリーズを子どもの時読んだ日本人の75%が蛇に対するトラウマを持っているそうです──うそです。でも『蛇は怖い』と思っている人はかなり思い当たるふしがあるのでは?
このブログは2001年07月23日開設のサイト「幻想画廊」を2019年にWordpressで移築したものです。この記事は20年前の、2002年04月09日(火)に書かれました。文章の内容を変えずにそのまま転載してあります。リンク切れなど不備もありますが、どうぞご了承くださいませ。