【不朽体(ふきゅうたい)】死後数百年経っても朽ちることのない遺体の謎

それどころか、奇跡はそれで終わらなかった。聖ツィータの遺体には、腐敗の痕跡がまったく見られなかったのである

(『ミイラはなぜ魅力的か』ヘザー・プリングル より)

キリスト教世界の不思議

私のハンドルマリア・ガルシアは、おばの名前を拝借しています。彼女は非常に熱心なキリスト教徒で、聖歌隊の一員としてバチカンへ出向くほどでした。おばはよく私を教会へ連れて行ってくれました。教会ではマリア様などの描かれたカードや、布教のための絵本、お菓子などをくれましたから、実はそれ目当てだったんですけどね。

わたしはまったく熱心な信者ではありませんでしたが、キリスト教にまつわるお話は奇想天外で興味深く、ワクワクしながらシスターのお話を聞きました。イエスの姿が写し出されているという「トリノの聖骸布」、手にしたものは世界を手にすることができるという「ロンギヌスの聖槍」、アララト山に埋まっているという「ノアの箱船」──

今回はキリスト教の奇跡の中でも非常に興味深い「不朽体( incorruptible インコラプティブル)」を取り上げましょう。

腐敗することのない遺体「不朽体」

下の動画を見てください。

St. Bernadette's Incorrupt Body

ただシスターが眠っているだけに見えるって? この人は1879年に亡くなったベルナデットさんです。亡くなって100年以上たつというのに、上の写真のようにその遺体はまるで眠っているかのように腐敗していないのです。可愛らしい爪やそっと閉じたまぶたを見ても、まるで生きているようではありませんか。

キリスト教徒はこのように、死後も朽ちることなく生前の姿のままの体を不朽体(ふきゅうたい)と言い、聖人の証と考えていました。

不朽体とは何か?

生前に熱心なキリスト教信者として活動し、神から選ばれた者は不朽体になると言われ、その遺体は信仰の対象としてまつられました。

カトリック教会は、いくつかの条件を満たしたものを不朽体として認定しています。その条件とは「腐敗しない」「硬直しない」「えも言われぬ芳香を発している」「遺体のどこかからか出血する」などです。

このような不朽体は全世界に数百体あると言われています。キリスト教徒はこれらの超自然現象を神の御業(みわざ)、奇跡と考えていますが、いったいどのようなメカニズムで遺体が腐敗しないのでしょうか?

聖ベルナデットのケース

ベルナデットは最も有名な不朽体です。彼女は病気を治すという「ルルドの泉」を聖母マリアから授かったことでも知られています。1879年に35歳で亡くなったのですが、遺体は時を止めたように美しいままです。

彼女が息を引き取って30年後、司教の立ち会いのもとに棺を開けると、遺体は全く腐敗していませんでした。そこまでは良いのですが、その後何度か遺体を墓から掘り出したり埋め直したりしたことが災いして、遺体は少しずつ傷み始めました。そこで1920年代には保存のために皮膚にロウが塗られました。つまり聖ベルナデットの遺体は完全な不朽体ではなく、防腐処置をされているんですね。

聖マルゲリータのケース

聖マルゲリータが亡くなったのは1297年だと言われています。トスカーナ地方の農夫の娘として生まれ、慈善事業に人生を捧げました。死後700年たっても腐敗せず、目も完璧に残っていると言うことです。

Incorruptible Body: Blessed Margaret of Castello

イタリア人病理学者のフルケーリが調査したところ、内臓を摘出しミイラ化の処理をされた跡がはっきりと確認されました。彼女を聖人視した市民が教会に死体防腐処理を頼んだのではないかと、フルケーリは推測しています。

聖ツィータのケース

1278年に亡くなった聖ツィータも死後700年が経過しています。肌はやや黒ずんでいるものの、すべすべとしていて爪もつややかです。この不朽体は科学的な調査をしてもまったく防腐剤は検出されませんでした。内臓も完全に残っており、まさにパーフェクトな不朽体です。

フルケーリは遺体が安置されていた墓所の室温が低いことと、内部がアルカリ性の石で覆われていたことから、自然に乾燥しミイラ化したのではないかと考えています。

「奇跡」か「自然現象」か

はたしてこれが「奇跡」なのか、偶然が重なった「自然現象」なのかは分かりません。それでも私たちは不朽体を目の当たりにするとき、それに惹かれずにはおれません。それはいったいなぜでしょう。

YouTube

生きている者にとっての不朽体とは

私のおばは私が中学生の時に亡くなりました。自死でした。あれほど熱心な信者だったのに若くして亡くなってしまい、私は無常観と悲しみで胸がいっぱいになりました。人間は死から逃れられません。それを思い知ると人はどうしようもなく寂しい気持ちになるのです。

しかし不朽体を見るとき、私たちは少しだけ「永遠の生」を夢見ます。たとえ人工的に手が加えられた遺体だとしても、腐敗しない聖人に畏敬の念を感じるのはそのためかもしれません。

参考文献

『ミイラはなぜ魅力的か 最前線の研究者たちが明かす人間の本質』へザー・プリングル 鈴木 主税訳 東郷 えりか訳

ミイラは『年月のたったただの死体』でも、こんなにも人を惹きつけるのはなぜなんでしょう? ミイラに魅せられた著者が世界中を飛び回り研究した、ミイラに関するフィールドワーク。

The Saints(English)

不朽体の写真(中央の「The Incorruptibles」のリンクから)

このブログは2001年07月23日開設のサイト「幻想画廊」を2019年にWordpressで移築したものです。この記事は16年前の、2003年06月17日(火)に書かれました。文章の内容を変えずにそのまま転載してあります。リンク切れなど不備もありますが、どうぞご了承くださいませ。

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