【双子2】シャム双生児の分離手術の倫理とバニシングツイン

だが誰もが、わたしたちの体が胸骨の位置で、筋肉質のよじれた靱帯でつながれていることしか目に入らなかった。

(『運命の双子』ダリン・ストラウス 布施 由紀子 より)

シャム双生児とは何か

シャム双生児とは、体の一部がつながっている双子のことです。結合性双生児とも言います。ベトナムのベトちゃんドクちゃんを思い出される方も多いでしょう。彼らはベトナム戦争で使用された枯れ葉剤・ダイオキシンの影響で生まれたとも言われますが、シャム双生児は普通でも数十万に1組の確率で生まれます。

もともとはシャム(現在のタイ)に生まれた男性の結合双生児チャンとエン兄弟に由来します。彼らは腰のところでつながっていて、サーカス王P・T・バーナムのショーや見せ物小屋のショーに出演しました。この兄弟は結婚し62歳まで長生きした、極めて珍しいシャム双生児です。

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シャム双生児の分離手術

シャム双生児には様々な結合形態があります。全ての臓器をお互いが持っていれば比較的簡単に分離手術もできるのですが、1つしかない臓器を共有している場合は手術は困難になります。しかし成長した2人分の身体を1人分の臓器で維持していくのは臓器に負担がかかるため、1人だけでも生き延びられる可能性がある場合は、もう1人を犠牲にして手術が行われることもあります。

 

Pierre Boaistuau / ピエール・ボエスチュオの『驚嘆すべき物語(驚倒すべき物語)』の中の双生児(1573)

ブラックジャック・二人のジャン

手塚治虫の『ブラックジャック』にはシャム双生児をテーマにした『2人のジャン』という作品があります。

天才外科医・ブラックジャックによって分離手術を受ける、双頭のシャム双生児。彼らの1人の脳は培養液の中へ移され生きた標本となる予定です。結果的に手術は成功したのですが、生き残った片割れの少年は、培養液のタンクを壊して脳だけとなった兄弟を殺してしまいます。

彼らは生き残った方が脳だけになった方を死なせてやろう──と手術前に決めていたのでした。実験材料にはなりたくなかったからです。

削除された脳に意識があれば、目も見えず、口もきけず、真っ暗な世界で生きなければなりません。感覚器がむき出しになっていて外界の刺激を遮断することができないため、すさまじい痛みに苦しまねばならないかも知れません。双子の1人を選ぶことや、実験対象として脳を保存する人間のエゴを考えさせられる作品です。

実際の分離手術のケース

現実にも英国で2000年9月に、心臓と肺を共有した結合性双生児の分離手術の是非をめぐる裁判がありました。手術をすれば一方が死ぬのは確実です。双子の1人を救うためもう1人の命を人為的に奪うことが、倫理上許されるかどうかで意見が分かれました。高等法院(高裁)は「分離しなければ数カ月以内に2人とも死亡する」として手術を命じる判決を出しました。

この双子の名前はメアリーとジョディ。心肺を共有していて、メアリは血流をすべてジョディに依存しています。分離手術をするとジョディは生き延びますが、メアリはすぐに死んでしまいます。逆に分離手術をしないと、数ヶ月以内に2人とも死んでしまうわけです。

もしあなたが彼女たちの両親だったら、どちらを選びますか? 医師だったらどうしますか? または双子の一人だったら?

バニシング・ツインの不思議

ところで双生児と言えば、妊娠して母親の胎内にいるときは双子なのに、出産のときには1人しか生まれないという不思議な現象があります。最近の超音波診断によって発見されたことですが、双子を妊娠しても実際に双子を出産するのは半分なんだそうです。

これはバニシング・ツインと言われ、本来ならば双子として生を受けるはずの胎児が、妊娠初期の期間に消滅してしまうらしいのです。「バニシング」とは「消える」という意味です。原因は現在のところよく分かっていません。

みなさんの中には、ひょっとすると消えた双子の片割れが心にすむ、シャム双生児の方もいらっしゃるかもしれませんよ?

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参考文献

『運命の双子』ダリン・ストラウス 布施 由紀子

小説の形態をとっていますが、実在のシャム双生児チャンとエンをモデルに書かれています。彼らの生い立ち、結婚生活、周囲の偏見、当時のシャムの様子などが回顧形式で語られます。「数奇な運命」という言葉では言い足りません。

Chang and Eng Bunker (English) ※リンク切れ

チャンとエン兄弟の画像が見られます

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