私は時々、『自分はもう死んじゃってて、今の私は擬体と電脳で構成された疑似人格じゃないか?』って思うことあるわ。
(『攻殻機動隊 1』士郎 正宗 より)
バラ色の未来社会
私が小さいときには21世紀はバラ色の未来に思えました。空飛ぶクルマが走るエアチューブが空中に張り巡らされ、家事ロボット、ペットロボットなど一家に何台もロボットがいて、人々は体にぴったりとしたピカピカの服を身につけている──
私が読んでいた科学雑誌では「未来の世界はこうなる!」という読み物がよく載っていました。その中でも私が憧れたのはサイボーグです。
機械の身体に取り替えよう!
「体の悪いところを機械の部品と取り替えるサイボーグ手術」「人工筋肉を取りつければ、君もオリンピック選手になれる」という記事と、リアルに描かれたイラストに私は興味津々でした。
私は小さい頃からぜんそく持ちで病気がちでしたし、片側の目と耳があまり良くないため、『銀河鉄道999』の星野鉄郎君のように機械の体が欲しいなあと思っていました。
ギャラリーの写真で私はサイボーグになっています。丈夫な人工骨と、コンピュータで自動制御された人工筋肉、全身もつやつやとした人工皮膚で覆っています。内臓も長持ちする人工臓器と入れ替えました。腕が壊れても大丈夫。新しいパーツと取り替えればいいのです。
人工心臓・コンピュータ義手・人工眼
SFのように思われるサイボーグも、現在世界中の研究機関で開発が進んでいます。2001年には米アビオメド社がチタンとプラスチックでできた完全埋め込み型人工心臓の臨床試験を行いました。使う人の筋肉の動きを学習しながら進化するコンピュータ筋電義手や、全盲者の目の中に埋め込んで、光を電気信号で視神経に伝えるコンピュータ・チップなどは障害を持つ人に大きな福音となることでしょう。
サイボーグ化手術の問題点
しかし人間は快楽と安楽のためなら何だってするものです。それが科学を発展させる原動力となっているのは確かですが「ちょっと体がだるいから機械の体と取り替えよう」「人より速く走れるようになりたいから手術をしよう」と安易な動機でサイボーグ化することには何か問題はないのでしょうか?
携帯電話を持つようになってから電話番号を覚えられなくなったという話を聞きます。『ローフィールド館の惨劇』(ルース・レンデル)という小説で知ったのですが、読み書きのできない人はメモを書いたりすることができないため、読み書きができる人よりもずっとすぐれた記憶力を持つのだそうです。書くことが出来ない分、脳はフル回転で働くのですね。
人間の肉体は怠け者
怪我をした人はご存じでしょうが、足を骨折して完治した後にギプスを取ると、筋肉が衰えてやせ細っていることに驚きます。人間の体は脳でも体でも使わないとすぐに怠けてしまうのですね。
携帯やコンピュータでできるようになったことはたくさんあります。しかし失ったものもあります。電話番号を忘れるのは特に生命の危険はありませんし、ギプスをとった後に運動すればまた筋肉はよみがえるでしょう。しかし安易な理由で機械の体と取り替えたら、私たちは何か大切な物を失ってしまうのもしれません。
あなたの予想するサイボーグパーツは何ですか?
私の予想では将来一般の人が手に入れるサイボーグ的なパーツは「脳をサポートする記憶媒体」だと思っています。脳が記憶する代わりに人の名前やその日にあったでき事を覚え、いざというときにはすぐに情報を取り出すことができます。ネットワークにダイレクトに接続して情報を検索することもできるようになるでしょう。
でも脳のなかに埋め込んだコンピュータが壊れたら、赤ん坊か痴呆老人同様です。便利なんだか、不便なんだか。ひょっとして私たちはだんだん退化していくのでしょうか。
参考文献
『攻殻機動隊 1』士郎 正宗
世界に誇るSFマンガ作家といったら士郎正宗。アニメ映画としても有名ですが、原作のマンガの情報量は膨大。SFの入門書としても最高です。スレンダーかつグラマーなヒロインも魅力的。サイバーパンクの傑作です。
このブログは2001年07月23日開設のサイト「幻想画廊」を2019年にWordpressで移築したものです。この記事は21年前の、2002年11月19日(火)に書かれました。文章の内容を変えずにそのまま転載してあります。リンク切れなど不備もありますが、どうぞご了承くださいませ。