(マモーに、君はクローンかオリジナルかと問われて)
ルパン3世:「バカヤロー! オレはオレだ!(『影の肖像』北川 歩実 より)
クローン人間の妊娠に成功?
先週クローン人間(ヒトクローン個体)についてのニュースが話題になりました。タス通信によると、イタリア人医師のセベリノ・アンティノリ氏が、世界初のクローン技術を使った妊娠に成功したとのこと。現在、妊娠9週目に入っているそうです。
ただヒトクローンの核移植の成功率は非常に低いのと、アンティノリ氏がほとんどデータを公開していないため、本当に成功しているかどうか疑わしいと言われています。またアンティノリ氏だけでなく、異星人との交流を目指す宗教団体ラエリアン・ムーブメントも、クローン人間の誕生に関わっていると発表しました。
クローン人間とは?
クローン人間とは特定の人間と全く同じ遺伝情報(DNA)を持った人間のことです。普通の妊娠では、男女2人のDNAが受け継がれるのですが、クローン人間は元のDNAの持ち主と遺伝子的に全く同じ人間なのです。
『ルパンVS複製人間』という映画があります。クローン技術を開発した狂気の天才マモーと、ルパン3世との戦いを描いたアニメです。マモーは歴史上の人物のクローンを作り出します。レオナルド・ダ・ヴィンチ、毛沢東、ヒットラー──マモーはルパン3世もそのクローン人間コレクションに加えようとするのです。
クローン人間の誤解
一般によく誤解されていますが、実際のクローン人間は「人間として全く同じ」ではありません。クローン人間はただ「DNAが同じ」だけなのです。これは双子を考えてみればよく分かります。双子は同じDNAを持っていますが、同じ環境で育っても性格、才能、嗜好が違っていることはよくありますよね。
よって、もしヒットラーのクローンを作っても日本で生まれ育てば「モー娘。サイコー!」という普通の少年になるだけかもしれません。
問題1:優勢学的な差別
ではクローン人間で問題になることとはなんでしょうか? 第一にアンティノリ氏がクローン人間に遺伝子異常など先天障害があった場合、中絶するつもりでいることです。つまり彼はヒトクローンの成功率と評判を上げるために、障害のあるクローンをなかったことにしたいのです。
これは優生学的な差別です。また、「先天障害の可能性があるからクローン人間は禁止すべき」というマスコミも、同様に優生学的な感覚に捕らわれています。そしてこの考えは遺伝子的に体質や性格、能力をあらかじめ操作された「優れた人間作り(デザイナーベビー)」にもつながってしまうのです。
問題2:ヒトクローンの材料はどこで?
第二にヒトクローンの材料となる卵子をどこで手に入れるのかという問題です。卵子は人工的に作ることができないため、必ず人間の女性から取り出さねばなりません。その際どうしても女性に痛みや病気のリスクがあるのです。中絶した胎児の卵巣から卵を取るという手段もありますが、中絶胎児の体をどこまで使用して良いのか、まだ十分な議論がなされていません。
問題3:人はどこまでかかわれるのか?
そして人の命の誕生に、どこまで人間がかかわっていいのかという倫理的な問題。これは「一人っ子だとかわいそうだから、二番目の子供を作る」という両親の考えとよくごっちゃにされますが、家族間のプライバシーと医療的にヒトクローンを作ることとは分けて考えねばなりません。医療技術としてクローン人間が認められるようになると、生殖目的だけでなく研究目的のためのヒトクローン作りへと移行する可能性があるのです。
人間はどこまでやってもいいのか結論がでないまま、科学技術だけが進んでしまいました。人類最初のクローン人間は、あと8ヶ月ほどで生まれる予定です。
参考文献
『影の肖像』北川 歩実
クローン技術と人間の愛憎劇をテーマにした本格ミステリ。『クローン人間が生まれた日』という題名の小説をめぐって起きる殺人事件。憎悪、愛情、狂気渦巻くストーリーです。ちなみに著者の北川 歩実は覆面作家で、年齢、出身地などが全て謎の人なんですよ。
このブログは2001年07月23日開設のサイト「幻想画廊」を2019年にWordpressで移築したものです。この記事は20年前の、2002年04月16日(火)に書かれました。文章の内容を変えずにそのまま転載してあります。リンク切れなど不備もありますが、どうぞご了承くださいませ。