【マジシャン】小学生時代に出会った天才手品師・メガネのお兄さんのお話

だまされることは、だいたいにおいて間抜けだ。ただしかし、だまされる才覚がひとにないと、この世はかさっかさの、笑いもなんにもない、どんづまりの世界になってしまう。

(『プラネタリウムのふたご』いしいしんじ より)

初めて見たマジックはなあに

みなさんが初めて見たマジックは何ですか? 「松旭斎天勝の水芸」というご年配の方、「初代・引田天巧の脱出マジック」という働き盛りの方、「ミスターマリックの超魔術」なんていうお若い方もいらっしゃるでしょうね。

私も小学校、中学校とマジックに夢中になっていた時期がありました。上の写真で使っているマジックの小道具は全部自前です。子どものころの「たからもの箱」をあさっていると、マジックの懐かしい思い出が蘇ってきました。

今回は私がマジックにはまるきっかけとなった、素晴らしいマジシャンのお話です。

どうして当たっちゃうんだろう?

私が小学生の時、近所に20代のお兄さんがいました。ひょろりとした長身で、メガネの奥の目がいつも笑っている人でした。彼は仕事の合間によく手品を見せてくれました。そう「マジック」というよりは「手品」と言った方が似合うかもしれません。

トランプの手品が得意でした。どれも私が引いたカードを当てるというトリックでしたが、毎回別の方法で当てるのです。絶対にお兄さんに見られないようランドセルで隠しながらそっと見るなど工夫していたのに、絶対に当てられてしまうので悔しさ半分面白さ半分でした。

10円玉はどこに

お兄さんはお金を使った手品も得意でした。お兄さんは確かに右手に10円玉を取ったはずなのに、いつの間にか消えています。彼はしばらくキョロキョロしていると、私の髪の毛に手をのばし「ここにあった」とその10円を取り出すのです。そして「これはマリアちゃんの髪の毛から出てきたから、マリアちゃんのだね」と言って10円玉をくれるのでした。大きな手で次々と不思議を創り出すお兄さんは私のあこがれでした。

マリア手品にはまる

やがて私は片っ端から手品の本を読みあさり、鏡の前でトリックの練習をするようになりました。お小遣いをためてマジック用品を少しずつ手に入れては、友達に披露しました。

でも手品に関する知識が増えていくにつれ、お兄さんの手品は実はとても単純でなんだかあか抜けないように思えてくるのでした。そのころにはお兄さんが見せてくれた手品はだいたい自分でもできるようになっていたからです。手品を習ってから、私はお兄さんの手品にちょっとがっかりし始めていました。

とっておきの手品

ある日お兄さんと会ったとき、彼はこう言いました。

「今度会社をかわることになったからもう会えないんだ。だから最後にとっておきの手品を見せてあげるよ」

お兄さんはトランプを取り出して1枚引くように言いました。ハートの3です。彼がパラパラとカードをはじき、私は引き抜いたカードを好きな位置に差し込みました。そしてシャッフル。

ああ、なーんだ。この手品は知ってる。多分あのトリックだなと見当をつけました。

さてお立ち会い

お兄さんはカードを3つの山に分けて、真ん中の束を指さしました。

「一番上のカードをめくってごらん」

クラブの6。苦笑いしながらハズレだとつげました。すると彼は頭をかきながら胸ポケットから3つの封筒を取り出しました。

「いや実はね、あらかじめこの封筒の中に予言を書いてあったんだよ。どれか一枚選んで」

私が右端の封筒を手にとって中を見ると「一番上のカードから3番目」と書いた紙が入っていました。カードをめくっていくと、クラブの6から3番目のカードは、ハートの3! 私はびっくりしながらも、

「でも、その封筒には全部同じ事が書いてあるんでしょう?」

と聞きました。

残りの2つの封筒に書いてあったのは

彼が微笑みながら差し出した残りの封筒を開けてみると、「ランドセルの中」とありました。

慌ててランドセルを開けてみると、教科書とノートの間にキャンディが1つ入っていました! いったいいつの間に?

そしてドキドキしながら最後の封筒を開けてみました。そこには「地震にご注意」と書いた紙。

「これ何ですか?」

「まあ、注意するにこしたことはないよね。じゃあ、元気でね。手品のコツは一に練習、二に練習だよ。」

お兄さんの予言

その夜、本当に地震があったのです。

私は今でもそのトリックが分かりません。ただの偶然かもしれません。でも観客にいつまでも余韻の残る不思議を提供するという演出は、本当に素晴らしかった。彼は私の知る中でも、最も素晴らしい天才マジシャンです。

今でも私は小さな子どもがいる集まりには、必ず小さなネタをポケットに入れて出かけます。キラキラとした目で不思議を追いかけようとする子どもたち。そんな彼らの目を見つめることは何とも言えない幸せです。それが分かったのは、私がお兄さんの年齢ぐらいになってからです。お兄さんの目がいつもニコニコと笑っていたのはきっとそういう理由だったのでしょう。

参考文献

『プラネタリウムのふたご』いしいしんじ

読み終わった後に暖かい気持ちになれるお話。プラネタリウムで生まれた双子の兄弟。一人は郵便屋さん兼プラネタリウムの解説員。もう一人はサーカス団員の手品師。途中から全く別の人生を歩む2人のファンタジックで数奇な運命。素敵なマジシャンだなあと思いました。

Magic Tricks (English) ※リンク切れ

オンラインでマジックを体験できます。不思議ー。

このブログは2001年07月23日開設のサイト「幻想画廊」を2019年にWordpressで移築したものです。この記事は18年前の、2004年03月30日(火)に書かれました。文章の内容を変えずにそのまま転載してあります。リンク切れなど不備もありますが、どうぞご了承くださいませ。

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