【華宵】大正時代の天才挿絵画家・高畠華宵(たかばたけかしょう)の少年少女

国貞描くの乙女もゆけば
華宵好みの君もゆく
宵の銀座のオルゴール

(『銀座行進曲』 より)

中学生時代の私のアイドル

中学生の時の私が熱烈に好きだった少年。私は彼のポストカードを眺めて空想したり、彼の絵をノートに描いたりして夢中でした。

それはある挿絵画家が描いたイラストの少年でした。「馬賊の唄(この本の表紙です)」というタイトルの水彩画で、白い馬によりそった凛々しい軍服姿の美少年です。

今回は大正から昭和初期にかけて一世を風靡した挿絵画家、高畠華宵(たかばたけかしょう)をご紹介しましょう。

華宵好みの君もゆく

冒頭にあげた唄は昭和3年にレコードが発売された「銀座行進曲」です。当時の銀座の風景や流行を唄ったもので、この中に華宵が登場します。

昭和初期の銀座は、ファッショナブルな洋服に身を包んだモダンガールが溢れる最先端の街でした。彼女たちがお手本としたのは、華宵の描くイラストのファッションです。

華宵の挿絵が載った少女雑誌は飛ぶように売れました。モダンガールたちは絵の中の美女が着る洋服や着物に憧れ、銀座は「華宵好みの君」で溢れたのです。

高畠華宵とは

高畠華宵は明治21年(1888)に愛媛県で生まれました。本名は幸吉です。もともと商人の出で苗字・帯刀を許された家柄でした。

小さい頃から絵が好きで、姉妹とのおままごとなどおっとりした遊びばかりしていたそうです。彼は15歳で大阪へ出て画家に弟子入りした後、京都美術学校、関西美術院で学びました。

明治39年に上京してからは職を転々として苦しい生活を続けましたが、津村順天堂(現ツムラ)の広告を手掛けたことから運が上向き始めました。手ぬぐいで隠したヌードのイラストは、当時としてはかなりセンセーショナルだったのではないでしょうか。

バスクリン(津村順天堂 昭和5年)ジャパンアーカイブズ – Japan Archives

現在でも薬局で売っている中将湯、日本海上保険(現 日本興亜損害保険)、デパートなどの商業ポスター、『少女倶楽部』『少年倶楽部』『講談倶楽部』と活躍の場を広げ、華宵は時代の寵児となりました。

汽車も遅れる大人気?

華宵の門下生、森武彦氏が語る華宵のエピソードにこんなものがあります。

北海道で展覧会があったときの帰り道。華宵が汽車に乗るために弟子一同と駅へ行ったら、駅長さんが華宵をぜひにと駅長室へと案内しました。彼は華宵の大ファンだったのです。やがて蒸気機関車が汽笛を鳴らしてやってきたのですが、駅長さんは華宵と話し込んでいます。

駅長さんは「私が指図しなければ発車しないから」と言って、結局5分くらい汽車を停めていました。駅長が汽車を遅らせるなんてのどかな時代ですね。それだけ華宵が人気者だったと分かるお話です。森氏は現在華宵の絵が飾られている弥生美術館の副館長さんをされています。

美少女・美少年の魅力

華宵の描く美少女、美少年の魅力とは何でしょう。私はその夢見るような眼差しだと思います。うっとりと物思いにふける少女に、見る者の心を一瞬にして捕らえてしまう流し目の少年。

華宵の作品にはにっこり笑っている人物が意外に少ないのです。人に媚びない涼しげな目をした彼女、彼らはなんと清楚で凛々しいのでしょう。

現代のアニメーションの美少女も好きですが、彼女たちはみな天真爛漫に笑っています。そんなアニメを見て育った私は、一見して無表情とも見える華宵の美少女がとても新鮮に思えました。その微笑みには妖しい何かが潜んでいるようで、心がざわめくのです。

華宵の真骨頂は

華宵の作品の中でも人気があるのが少年の挿絵です。彼らは少女たちよりもつややかな肌と赤い唇を持っています。私が大好きだった「馬賊の唄」の少年など、美少女が男装しているのだと言っても通るほどの美しさです。

少女の絵は健康的ですがすがしいイメージですが、少年の絵はどこかエロティックで倒錯的な雰囲気があるのです。少年2人がよりそうイラストに恋人同士のような親密さを感じるのは私だけでしょうか。

理想と現実

華宵は生涯独身で通しました。華宵の家では1人のお手伝いさん以外はみな男性のお弟子さんばかりだったと言います。ファンの女性も一切家の中には入れなかったそうです。

男色趣味があったという噂もなるほどと頷けます。華宵の描く美少年は匂い立つような色気があるからです。でもこれだけ理想の美少女、美少年を描いていれば、なかなか現実の人間には納得できないのかもしれませんね。

ジャニーズor華宵?

ギャラリーでは「馬賊の唄」の絵を胸に、うっとりしているマリアを日本画風に描いてみました(華宵は日本画も素晴らしいのですよ)。

中学校のクラスメートたちは、ジャニーズのアイドルの写真を切り抜いて持っていましたが、私は華宵の絵を透明なプラスチックの下敷きに挟んで、うっとり眺めていました。中学生の時から懐古趣味だった私は、同級生に「おばあちゃんと話をしてるみたい」とよく言われました。当時お小遣いを貯めて買った画集を眺めると、中学生の時の気持ちが蘇ってきます。

参考文献

『高畠華宵・美少年図鑑』高畠 華宵画 コロナ・ブックス編集部編

高畠華宵といったら、やはり美少女よりも美少年。美しく妖しい少年たちの姿を堪能できる画集です。美輪明宏や竹宮恵子のエッセイなども入ってお得。白くつややかな肌と色気のある流し目にクラクラしてしまいます。なんと妖艶なのでしょう。こんな美少年がいたらいつまでも眺めていたいです。

弥生美術館・竹久夢二美術館

著作権の関係で、華宵のイラストをアップできないのが残念です。絵はこちらでご覧下さい。お近くの方はぜひ美術館へどうぞ。

このブログは2001年07月23日開設のサイト「幻想画廊」を2019年にWordpressで移築したものです。この記事は18年前の、2004年04月13日(火)に書かれました。文章の内容を変えずにそのまま転載してあります。リンク切れなど不備もありますが、どうぞご了承くださいませ。

元サイト「幻想画廊」はこちらです。

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