【剣呑み(ソードスロート)】サイドショウと差別問題

彼女は今、一タレントとして 我が見世物界に生きるのである 果して其の実態は 蛇霊因縁 宿命の子 だが因縁や宿命でないと 彼女は信じ明るく生きている。

(『オール見世物』カルロス山崎 より)

レディス アンド ジェントルメン!

先週に引き続きサイドショウシリーズです。今週は「剣呑み(ソードスロート)」。さて、皆様お立ち会い!

……と書こうと思ったのですが、ちょっと予定を変更。そんな訳でこのシリーズは来週も続きます。

デザイナという職業

先日受け取ったメールです。「フォトショップはつい最近使い始めたと書かれてますね。グラフィックデザイナーであればフォトショップとイラストレーターは必需ソフトのはずですが?」という内容でした。

確かにフォトショップ歴はほんの数年ですが、デザイナにとって「ソフトウェア歴」はあまり関係ないと考えてます。私は普通の大学に通ったので、「美大卒」「専門学校卒」という学歴や「この道何年」というキャリアもありません。しかし比較的年齢、性別、学歴、外見、キャリア、出身、宗教、人種などが重要視されない職業だったため、現在の仕事をしています。

学校での勉強や資格は仕事上何も役立っていません。社会人になってゼロからデザインの勉強を始めたので、回り道だったし辛いこともありました。でも私は今の生活に満足しています。

メールを下さった方は年配の男性デザイナでした。ご自分の体験から「フォトショップ歴がたった数年のデザイナなどあり得ない! プロのデザイナなんて嘘だ!」と思われたのかもしれません。

マリアは本当に女か?

また時々「マリアさんは本当に女性ですか?」というメールをいただきます。くどいぐらいサイトのあちこちで書いているように、私は医学上女性の肉体を持っていて、たった一人でサイトを運営しています。

なぜこんな疑問を持たれるかというと、ネットでは「男はコラム、女は日記」というように、女性のコラムサイトが少なかったり、合成画像を制作してネット上で発表している人(コラ職人)は圧倒的に男性が多いからなのです。趣味がコンピュータなど固いイメージなのも原因でしょう。

こういったメールをもらうたびに、私はため息をつきたくなります。この手のメールの送信者は全員男性です。何か偏見のようなものがある気がするのは考えすぎでしょうか。

差別のイメージ

差別というとどんなイメージを抱きますか? 敵意や憎しみを向けたり、陰でコソコソ悪口を言うような印象ではないでしょうか。

実はあからさまな差別よりも、「思いこみ」や「情報の欠如」によって生まれる差別の方が多いのです。そこに悪意はありません。時にはその差別が「同情」や「善意」から生まれることがあるからやっかいです。

例えば「障害者を見世物にするなんてかわいそう」というメールを下さった方は、以下の事実をご存じでしたか?

サイドショウの人気者

見世物小屋が劣悪な場所だった時代は確かにありました。映画『エレファントマン』のように本人の意志とは関係なく売り飛ばされ、人間扱いされなかった人もいたでしょう。

しかしショウビジネスの世界で成功した見世物芸人もたくさんいました。上映禁止だった映画『フリークス』に出演していた芸人も、当時の人気者スターたちです。

有名な芸人にチャンとエン兄弟(1811~1874)がいます。胸部が癒着した結合双生児でした。いわゆるシャム双生児のことです。彼らはアメリカに渡り、見世物芸から得られる収入で生活しました。各地で出演したサイドショウは大変な人気だったといいます。 それぞれ結婚して子供ももうけ、63歳まで結合したまま生きました。

【双子2】シャム双生児の分離手術の倫理とバニシングツイン
だが誰もが、わたしたちの体が胸骨の位置で、筋肉質のよじれた靱帯でつながれていることしか目に入らなかった。(『運命の双子』ダリン・ストラウス 布施 由紀子 より)

見世物小屋芸人・中村久子

日本の芸人の中村久子(1897~1968)は病気のために子供の頃に両手両足を切断しましたが、自立して生きるために20歳の時に自ら「ダルマ娘」として舞台に立ちました。編み物、裁縫、料理、書道など難なくこなし、日常生活には不自由ありませんでした。

昭和5年には学習院の運動会において皇室の三笠宮の前でその芸を披露し、三笠宮に「成せば成る 成さねば成らぬ 何事も 成さぬは人の 成さぬなりけり」という短冊を献上したそうです。当時の人にとってはこれは大変な名誉です。

見世物芸から身を引いた後は全国各地を講演してまわりました。彼女の講演やラジオ番組は人々に感銘を与えました。もし障害者という理由だけでマスメディアには出ることを禁止されていたら、たくさんの人に差別問題を提起することはできなかったでしょう。

OK? NG?

1968年にアメリカで障害者を見世物にすることを禁じる法律ができた時、多くの障害者たちが反対しました。お金を稼ぐ手段がなくなるし、芸を見せることに生き甲斐を感じていたからです。

最近人気のボブ・サップ選手。彼は「野獣」「獣人」と呼ばれることが多いですね。その巨大な肉体は世間の注目を集めています。でも私は彼がそう呼ばれたり、好奇の目で見られるのを差別と感じているとは思えません。彼にとっても拍手喝采を浴びることこそ、生き甲斐でしょう。

ボブ・サップの試合はテレビで放映されますが小人プロレスは放映されません。どちらも無理矢理その職業につかされたわけではないのに、常人よりも大きいボブ・サップはOKで、常人より小さい小人プロレスのレスラーはNG。なんだか変な気がします。

本当に残酷なこと

「障害者を見世物にするのはかわいそう」という人は「障害者イコールかわいそうな人」と思いこんでいます。自分の意志で生きることができない人はかわいそうでしょう。でも自ら志し芸に精進する見世物小屋芸人、自分の意志で何かを伝えようとする人は「かわいそうな人」でしょうか?

選択する自由が奪われること、自分の仕事が評価されないこと、社会から切り離されて生きること、言葉や存在を抹殺されること──何か本当に残酷なのかを考えねばなりません。

自ら選んだ人生を生きる人

最後の見世物小屋芸人と言われる安田里美は、最初「頭の毛の白い子供」として見世物小屋に入りました。しかしそれだけでは売りがなく飽きられると、小さい頃から様々な芸の修行をして、人間ポンプや火吹き芸で成功しました。

自ら選んだ人生を懸命に生きる人は輝き、生まれ持ったものにあぐらをかいて努力をしなかった人には後悔が残る。それは障害者だろうと健常者だろうと同じです。

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山間におりましたときに、恐ろしい獣に襲われたときには、松とか、ありとあらゆる木の油をしぼって、これを火をつけて燃やして、猛獣を追っ払ったものであります。これはこのお姉さん独特の演芸です。山間におりましたときの猛獣よけの火祭、火の祭典です。(『見世物稼業 安田里見一代記』鵜飼正樹 より)
【シャム双生児】差別をなくすために私達は何ができるのか?
迷いながら 間違いながら 歩いていく その姿が正しいんだ 君が立つ 地面は ホラ 360度 全て 道なんだ Stage of the ground(『Stage of the ground』BUMP OF CHICKEN より)

参考文献

『オール見世物』カルロス山崎

費出版なので、この本を偶然書店で手に入れることができた私はラッキーでした。蛇娘、ダルマ娘、人間ポンプ、カニ人間など、見世物の看板や呼び込みの口上(タンカ)が前ページカラーで見られます。非常に貴重な資料です。

“Sword Swallowing To The Hilt” (English)

「Photoguraphs」でたくさんの剣呑み芸の写真が見られます。

このブログは2001年07月23日開設のサイト「幻想画廊」を2019年にWordpressで移築したものです。この記事は19年前の、2004年01月27日(火)に書かれました。文章の内容を変えずにそのまま転載してあります。リンク切れなど不備もありますが、どうぞご了承くださいませ。

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