山間におりましたときに、恐ろしい獣に襲われたときには、松とか、ありとあらゆる木の油をしぼって、これを火をつけて燃やして、猛獣を追っ払ったものであります。これはこのお姉さん独特の演芸です。山間におりましたときの猛獣よけの火祭、火の祭典です。
(『見世物稼業 安田里見一代記』鵜飼正樹 より)
サイドショウの花形「火吹き」
「サイドショウ (Sideshow)」を知っていますか? いわゆる「見世物小屋」のことです。サーカスの隣(Side)で上演していることが多いのでそう呼ばれます。今回はサイドショウの花形火吹き(ファイアイータ)になってみました。
業界用語では「フキ(またはカエ」)」という出し物なのですが、日本語では「吹」いて、英語では「食べる」と、逆になっているのが興味深いですね。
人間ポンプ・安田里美
「最後の見世物小屋芸人」と言われる故・安田里美さんは6つの時から60年以上も見世物で活躍しました。碁石や金魚、カミソリなどを飲んではき出す人間ポンプ芸、マジックや居合い術、火吹きなど様々な芸を磨き続けました。
ほとんどの火吹き芸人は灯油かベンジンを使っているそうですが、安田さんはガソリンと灯油を混ぜるという方法を編み出しました。ガソリンは派手で大きな音がするので見栄えがするのです。でもガソリンは吸うと火が口の中まで伝わってやけどをしてしまうから、扱いが難しいようですよ。
なぜ見世物小屋が衰退したのか
見世物小屋は現在、世界各国ですたれつつあります。見世物小屋芸人は身体障害者が多かったからです。ギャラリーでも書いたシャム双生児や、ヒゲ女、手足のないダルマ娘、巨人や小人、手足の指が癒着してカニのハサミのようになったカニ人間などなど。


生まれついての障害を見世物にするのは倫理的でないという理由から、20世紀の半ば頃から世界中で見世物を禁止する法律ができたり、メディアの規制が始まったのです。
サイドショウの集大成「Freaks」
1932年に作られた『Freaks(フリークス)』という映画には、当時のサイドショウのスターたちがたくさん出演しています。素晴らしい芸や演技、斬新なストーリーなど傑作といっていいのですが、ただ「障害者が出ている」という理由だけで30年以上も上映禁止になっていました。
安田さんもたくさんテレビ出演をしましたが、現在では見世物小屋芸人をテレビで見ることはほとんどありません。
みなさん、ためしにキーボードで「こびと」と打ってみてください。「小人」とはすぐに出てきませんね。言葉も規制されつつあるのです。
芸人になる権利
でもこれこそが「差別」なのです。見世物小屋芸人は自らの身体と芸でお金を稼ぎ、自尊心を手に入れ、人々と交流してきたのです。
生まれつきの容姿や声を売り物にしている芸能人、持って生まれた身体能力で勝負するスポーツ選手と何が違うというのでしょう。
もちろん私は、全ての障害者が見世物小屋芸人になるべきといっているのではありません。どんな職業になるかは当人が決めることで、お上やマスコミが決めることではありません。まして言葉まで「なかったこと」にしてしまうのは彼らに対する侮辱だと思うのです。
私の大学生時代
話は変わって大学生時代のこと。私は超がつくほど真面目で勉強の虫でした。男の子とも付き合わず授業をギッチギチに取って、ゼミと図書室を往復し、空いた時間にダンスのレッスンとアルバイトをしました。なにしろ信号待ちをしている時も、歯を磨いているときも、語学の資格試験のためにMDを聴いて勉強していたほどです。
だから就職活動でろくに授業も出ずに遊んでいた男子学生が内定を取っていくのが悔しくて仕方ありませんでした。「なんで女なんかに生まれてしまったんだろう。女は損だ!」と。私は二十歳ごろまで「女に生まれて良かった」と感じたことはほとんどありませんでした。
外見と内面
若かったんですねー。一生懸命すぎてイタいです。でも若いってそんなもんです。今でも「人間は中身」と思っていますが、現在では少し考えが変わっています。
「人間の肉体はただの『殻』にすぎない。持って生まれた殻は代えようがない。でもどうせ『若い女の身体』を持っているんなら、それを使って見世モンにするのも面白かろう」そう思っています。
「幻想画廊」では私自身を材料に合成写真を作り発表しています。サイトを始めて得たモノはたくさんありますが、半ばひらきなおりのような、ふっきれたような、楽な気持ちになれたことも恩恵の一つです。
巨大な見世物小屋
私にとってはネットは巨大な見世物小屋。そこでは世界各国の摩訶不思議で奇妙奇天烈なショーが、来る日も来る日も上演されています。人々は好奇心を満たすために集い、芸人は芸を磨いて観客に見せるのです。
私はその見世物小屋の観客であり、また芸人の一人でもあります。他の芸人さんのパフォーマンスを楽しみながら、自分の「身体」「合成技術」「コラム」を芸として見せています。自分の芸を誇りに思い、日々精進してゆくことで楽しみを見いだし、私はようやく苦しい気持ちから救われました。
ネットでは誰でも見世物小屋に出演することができます。それを止める権利は誰にもありません。ましてや「なかったこと」にする権利も。
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参考文献
『見世物稼業 安田里美一代記』安田 里美
最後の見世物小屋芸人と言われる、故・安田里見さんの生涯を、彼自身の語りそのままに記録した貴重な見世物研究本。安田さん自身の見世物芸人としての魂が感じられます。人間ポンプの名人芸が、多くの写真と共に見られます。
このブログは2001年07月23日開設のサイト「幻想画廊」を2019年にWordpressで移築したものです。この記事は19年前の、2004年01月20日(火)に書かれました。文章の内容を変えずにそのまま転載してあります。リンク切れなど不備もありますが、どうぞご了承くださいませ。