さてもさても、みなさまのなかにまた今度、次の機会と考えてらっしゃる方がいるとすれば、それはちと了見が違います。何しろ時代が変わりました。後を継ぐ者はいない。ですからこれを逃せば生涯見ることができません。見せ物とはどんなものであったのか、いついつまでのお話の種、後々までの参考にどうぞ見ていって下さい。
(『贈る物語 Wonder』瀬名秀明 より)
サイドショウの仲間達
リサが疲れて寝てるから静かにしてちょうだいよ。なにしろあたしとリサは腰のところでつながってるからさ、別々に寝ることできないんだよ。
そうだよ。生まれたときからずーっとこの一座で暮らしてるよ。テントの外で、草色の毛布にくるまれてわんわん泣いてるあたしたちを、ヒゲ女のアニタおばさんが見つけたんだって。それからずっとみんなと一緒だね。アニタおばさん、料理うまいよ。チキンスープ、すっごくおいしいんだよ。風邪引いたときしか食べられないけどね。
旅から旅へ
あっちの街、こっちの街と国中いろんなとこへ行ったよ。いろんな街があった。前いたところではねえ、蜃気楼を見たよ。あんた見たことある? 蜃気楼。見たことないって、そりゃそうだよ。街の人もめったに見られないって言ってたもん。蜃気楼、珍しいんだよ。
ヘビ使いのハナとリサと3人で海に見に行ったんだよ。すごいんだよ。海の上に塔があるんだから! びっくりしたよ。ホントすごいんだから。ハナとリサとでキャアキャア騒いで楽しかったなあ。すぐ消えちゃっけど、たしかに見たよ! 先のとんがった高ーい、赤い塔だよ。異国の建物かな。不思議だよね。いろんなとこで、面白くて珍しいもん見られるんだから、あたし達最高にラッキーだよ!
世にも珍しいシャムの双子のダンス
あたし達、いろんなダンス踊れるよ。ジルバも、ワルツ、タンゴ、クイックステップ、スローもね。舞台の端から端までひとっ飛びだよ。いつもリサと踊ってるから。お客さんがいっぱい拍手してくれてすごく嬉しいんだよ。舞台が紙吹雪でいっぱいになってキレイ。うん。どんな難しいステップでもすぐ覚えられるよ。トチることなんか一回もないね。
当たり前だよ、あんた。
だってリサとあたしは一身同体だもの!
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参考文献
『贈る物語 Wonder』瀬名秀明
SF作家の瀬名秀明の、”Wonder(驚き)”をテーマにしたアンソロジーです。『託卵』は短編集になってないので、この本でしか読めません。幻想時代小説? と思いきや、実はSFという驚き。見せ物小屋で不眠・断食芸をする男の恐ろしい過去とは?
このブログは2001年07月23日開設のサイト「幻想画廊」を2019年にWordpressで移築したものです。この記事は21年前の、2002年01月08日(火)に書かれました。文章の内容を変えずにそのまま転載してあります。リンク切れなど不備もありますが、どうぞご了承くださいませ。