今にもそれが、肩から頚、頚から顎、そして彼女の真っ赤なヌメヌメとした唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。真にせまった一匹のトカゲの入墨であった 。
(『黒蜥蜴』江戸川乱歩 より)
読書家の原点・江戸川乱歩
日本人で読書家だという人には一つの共通点があるように思います。それは子供の頃に江戸川乱歩の洗礼を受けていることです。子供の頃ポプラ社の『少年探偵団シリーズ』を胸躍らせて読んだ方はきっと多いでしょう。
あなたも幻想的で奇妙、摩訶不思議で妖しいものがお好きでは? 「乱歩」と密かにつぶやくと、ワクワクするような感情が心に沸いてくるのではないでしょうか。
ダークサイド乱歩
しかし乱歩を手に取った少年少女が、明るく健全な少年探偵団ものから、暗く淫靡な乱歩作品へとひかれていくのにそれほど時間はかかりません。怪人二十面相の鬱屈した欲望、明智小五郎探偵と小林少年との妖しい関係に気づいた子供達は、乱歩のダークサイドも見てみたいと願ってしまうのです。
同性愛、人形愛、死体愛、レンズ嗜好症、サド・マゾ、猟奇、フェティシズム、見せ物小屋、コスプレ、のぞき願望、エロ・グロ・ナンセンス──「子供は見ちゃいけません」と禁止されているものたちが、乱歩の小説には全て詰まっています。
美輪明宏の黒蜥蜴
私が乱歩作品の中で一番好きなのは『黒蜥蜴』です。三島由紀夫の脚本や美輪明宏の舞台で有名ですね。
なんでも美輪明宏が『椿姫』の出演を考えていた時に、作家・三島由紀夫に「肺炎で死ぬ役やったって、君みたいにふてぶてしい奴じゃあ誰も悲しんだりしない。それより黒蜥蜴をやらないか?」と誘われたそうです。
結局、黒蜥蜴と椿姫はどちらも美輪明宏のハマリ役になりましたが、可憐ではかない椿姫よりも、したたかな悪女・黒蜥蜴を演じている方が生き生きしているように見えるんですよね。私も舞台を見たことがありますが、豪華絢爛でため息が出るほどセクシーでしたよ。
『黒蜥蜴』あらすじ
『黒蜥蜴』はこんなお話です。
神出鬼没の大怪盗、暗黒街に名をとどろかす「黒蜥蜴」。彼女は宝石商の美しい令嬢・岩瀬早苗の誘拐と一億円のダイヤ「エジプトの星」の強奪を予告します。しかし岩瀬家は当代きっての名探偵・明智小五郎に護衛と捜査を依頼。こうして泥棒と探偵という二人の天才の知恵比べが始まるのです。
「美しいものなら男でも女でも好き。美しいものを全てコレクションしたい」という欲望を持つ黒蜥蜴は、美しい早苗を剥製にして、宝石と共に弧島の秘密美術館に飾ろうとします。謎の大富豪「緑川夫人」を名乗り、明智を翻弄する黒蜥蜴ですが、彼女の大きな誤算は敵である探偵を愛してしまったことでした。
憧れのトカゲの刺青
子供の頃、私は緑川夫人こと黒蜥蜴にとても憧れていました。きれいなものばかり集めた御殿に住む悪の組織の女王様! なんて素敵なんでしょう!
黒蜥蜴は腕にトカゲの刺青をしているためそう呼ばれているのですが、子供の時の私は「大人になったら絶対にトカゲの刺青を入れるんだ!」とノートに刺青のデザインをたくさん描いていたほどです。ま、痛みをこらえられないのとスポーツジムに通えなくなるのが嫌でまだ入れてないんですが。
そうそう言い忘れていました。黒蜥蜴は変装の名手なんです。毎週いろんな人物に変身して不思議画像の世界に住む私は、ちょっとだけ黒蜥蜴に近づけたでしょうか? あとは明智小五郎のような男性を見つけるだけですね。
追記:2019年03月03日
1986年08月14日公開の映画『黒蜥蜴』、深作欣二監督、主演・美輪明宏(当時は丸山明宏)。文豪・三島由紀夫自信も出演のカルトムービーです。いろいろと事情があってDVD化・ブルーレイ化されていませんが、YouTube上で公開されています。くらくらするような美貌の丸山版黒蜥蜴です。いつ消されるかわからないのでぜひ今のうちに御覧ください。(86分)
参考文献
『黒蜥蜴』江戸川 乱歩
明智小五郎と黒蜥蜴の関係が理解できるようになったのは、大人になってからでした。いえ、まだ分かってないのかも。敵どうしの男女の、青白く燃えるような恋のせつなさを味わってください。
黒蜥蜴 ※リンク切れ
見に行きました。せつないワルツとともにゆったりとおじぎする黒蜥蜴の姿が今も目にやきついています。その美しさ、妖艶さ! 美輪黒蜥蜴はスゴイ。
明智探偵事務所 ※リンク切れ
なんという情報量。これほど乱歩作品を網羅したデータベースはありません。天知茂主演の「江戸川乱歩美女シリーズ」買おうかどうしようか非常に迷ってます。
このブログは2001年07月23日開設のサイト「幻想画廊」を2019年にWordpressで移築したものです。この記事は20年前の、2003年02月25日(火)に書かれました。文章の内容を変えずにそのまま転載してあります。リンク切れなど不備もありますが、どうぞご了承くださいませ。