【イザナギ・イザナミ】『古事記』日本初のナンパは女性からって本当!?

ああ、なんてすてきな殿方よ。

(『口語訳 古事記』三浦 佑之訳・注釈 より)

ワールドカップ前の友人C嬢との会話

私の友人C嬢は、明るく聡明で男の子に人気がある美人です。いつも私に「そんな地味な服装をしていてはダメ」「メガネはダサいからコンタクトにしなよ」と忠告してくれる世話焼きさんでもあります。先週のこと、そのC嬢が私に言いました。

C嬢「今週末ワールドカップで六本木盛り上がるはず。カッコいい男の子ゲットするチャンスだよ」
私「ゲ、ゲットって……」
C嬢「逆ナンだよー。ナンパ。一緒に踊りに行こうよ」
私「ナンパなんかできないよ。パソコンでやることあるし(←幻想画廊の更新のこと)」
C嬢「もー! 今はいいオトコはこっちから声かけないとダメだよ! オタクはモテないよ!」

ほっとけ!

日本で最初のナンパは女性から

C嬢に一喝されてしまいましたが、さかのぼること神話の時代、実は日本で最初のナンパは女性から声をかけたのであります。今回は『古事記』から日本の神話がテーマです。

イザナギとイザナミの国生み

高天原の神々は男神イザナギと女神イザナミというカップルに天の沼矛をさずけ、国を創るように命じます。まず始めに天の御柱という柱と八尋殿という宮殿を建てました。一息つくとイザナギが言いました。

「天の御柱の周りをぐるりとまわって、『みとのまぐはい』をしようではないか」

この『みとのまぐはい』はセックスのことです。イザナギとイザナミは柱の周りをまわった後、こう叫びました。

「あなにやしえをとこを! (あら、なんていいオトコ!)」

「あなにやしえをとめを! (おお、なんといいオンナ!)」

この後二人は性交して、二人の子ヒルコアワシマが産まれるのですが、ヒルコは骨のない子供で捨てられ、アワシマも人の形になりませんでした。女のイザナミから声をかけたので、最初の国産みは失敗だったのです。

かなりエッチな古事記

私はこの物語を学校の授業で聞きました。最初「はいはい、どうせ男尊女卑のお話でしょ」とうんざりしていたのですが、先生は全然別のことをおっしゃいました。

先生いわく「この『みとのまぐはい』の前に交わされる会話に注目しなければならない」と。

「イザナミ、君の体はどんなになってる?」

「私の体はほとんどでき上がっているけど、一カ所だけ足りない『成り成りて成り合わざるところ』があるわ」

「ボクの体はほとんどでき上がっているけど、一カ所だけ余分な『成り成りて成り余れるところ』がある。君の足りない部分にボクの余っている部分を差し入れて国を産もうと思うけど、どうかな?」

「OKよ」

なんともあけすけで、大胆な会話ですね。この会話を見るとイザナギがイザナミにお伺いをたて、最終的な判断はイザナミが出しているようです。

新しい価値観の流入を表しているのか?

先生によると、もともと古代の日本は女性を中心とした女系社会だったので、一族の最終的な判断も女性がしていたらしいのです。このシーンは大陸から「男尊女卑」という新しい価値観が入ってきて、ダイナミックな社会改革が行われたことを象徴的に表しているのではないかということでした。

この部分に関しては学者が様々な説を出していますが、私は先生の解釈がとても新鮮に感じました。古典を読んで当時の人達の生活を想像するのも読書の楽しみの一つですね。

現代のイザナミ達

さてさて時代下って2002年。C嬢はデートに大忙しの日々。学生さんを見ても元気があるのは女子生徒で、男子生徒さんの影は薄くなるばかり。女性でバリバリと仕事をしている人や、家庭でも旦那さんの居場所がないくらいに仕切っている奥様もたくさんいらっしゃいます。今はイザナミ風の女性が多くなってきているのかしらね。

参考文献

『口語訳 古事記』三浦 佑之訳・注釈

まるで囲炉裏の前で、おじいさんに昔話を聞いているような気分になれます。『……じゃったそうな』という語り口で、古代の神々と人間のお話が語られます。作者はヒルコ誕生についての解釈は近親相姦説をとっています。資料としても非常にすぐれた一冊。

このブログは2001年07月23日開設のサイト「幻想画廊」を2019年にWordpressで移築したものです。この記事は20年前の、2002年07月02日(火)に書かれました。文章の内容を変えずにそのまま転載してあります。リンク切れなど不備もありますが、どうぞご了承くださいませ。

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