ええ。とてもね、残酷な恋、不思議な恋でね、わたくしあのままでいったら、命をとられたでしょう。恋には犠牲がつきものなのね。犠牲には血がつきものだわ。
(『吸血鬼カーミラ』レ・ファニュ より)
私の血を飲みにきて!
永遠の命、欲しいですか? 私は子供のときから吸血鬼のお話が大好きでした。死なないしずっと子供のままでいられるし。食が細くて食べるのが面倒だと思うような子供だったので、血を飲むだけでいいなら大助かりです。
『吸血鬼ドラキュラ』(ブラム・ストーカー)を読んだ夜は「私の血を吸いにきてくれないかなあ」とワクワクしていました。今考えると、処女の生き血しか飲まないというドラキュラ伯爵はどう考えてもロリコン。需要と供給は合っていたのですが、彼が窓から忍び込んでくることはとうとうなかったのであります。
『吸血鬼カーミラ』
今回は『吸血鬼ドラキュラ』ではなく、それよりも27年前の1871年に書かれた、レ・ファニュの『吸血鬼カーミラ』を取り上げました。
主人公のローラは19歳。オーストリアの田舎で父とひっそりとくらしていました。ある日ローラが馬車の事故で途方に暮れているカーミラを介抱したことから、親しい付き合いをすることになります。しかしカーミラと交流を深めるにつれ、ローラは病にふせるようになりました。
そしてとうとう村の廃墟でカーミラそっくりの古い肖像画が見つかったことから、彼女が永遠の若さを保つ吸血鬼であることが発覚。人々が廃虚の墓地を暴くと、そこにはカーミラが美しいままに横たわっていたのです!
エロティックな吸血鬼
このカーミラは数ある吸血鬼物語の中でも特に印象に残っています。というのもこのカーミラ、ローラを抱きしめ愛の言葉をささやいたり、キスをしたりするのですよ。つまりカーミラは美しい少女が大好きなレズビアンなんですね。
100年以上も昔の物語ですから、どぎつい性描写はありません。でもこれを読んだ当時、小学生だった私はなんとなく胸がドキドキして、図書館で返却するときに顔が赤くなってしまったのを覚えています。
吸血鬼カーミラのモデル・エリザベート・バートリー
この吸血鬼カーミラのモデルは、ハンガリーに実在したエリザベート・バートリー伯爵夫人(1560~1614) であろうと言われています。トランシルバニア地方の名門バートリー家に生まれ、15歳の時にナダスディ家に嫁ぎました。
ある時召使いが彼女の髪をすいていて、誤ってエリザベートの髪を引き抜いてしまいました。彼女は召使いを思いきりぶちました。指輪で肌を切ったのか、召使いの血がぽたりとエリザベートの手に落ちました。エリザベートは血の付いた肌がなんとなく美しくなったような気がしました。エリザベートの顔が輝きました。「若い女の血こそが、若返りの妙薬だ」と思ったのです。
650人以上の犠牲者
夫が亡くなった後、エリザベートは「永遠の若さ」に取り憑かれました。彼女は鉄の処女と呼ばれる拷問道具で少女たちを殺したと言われます。それは人が入れるようになっている鉄でできた人形で、表は観音開きの扉になっています。
内側はびっしりとトゲがつけられていているため、中に少女を入れて扉を閉めるとトゲが少女の体中を貫くのです。吹き出した血は「鉄の処女」の下側に開けられた穴から流れ出て、血をシャワーのように浴びるのです。
エリザベートは近隣の村からさらってきた若い女を次々と殺害しました。しかしあちこちで娘が行方不明になればさすがに怪しまれます。ついに城が捜査されることになった時、拷問部屋からは少女たちの死体が山ほど発見されました。彼女が殺害した娘たちは600人以上もいました。エリザベートは地下室に幽閉され54歳で亡くなりました。
エリザベートとカーミラの違い
生き血を飲んだり浴びたりしていた彼女のイメージから、吸血鬼カーミラが生まれたのかもしれませんね。
しかし吸血鬼カーミラと、エリザベート・バートリーのイメージはかなり違っています。エリザベートが無理やり少女たちをさらっていったのに対し、『吸血鬼カーミラ』のローラとカーミラの関係は甘く切ないものだからです。
時代的にもキリスト教的にも同性愛はタブーですから、ローラはあからさまには語っていません。しかしカーミラに対する恋心が行間からほのかに感じ取れるのです。小学生だった私がドキドキしたのも、何かいけない秘密を知ってしまったというような気がしたからかも知れませんね。
現代の女吸血鬼?
ということで今回は現代の吸血鬼カーミラになってみました。現代っ子の吸血鬼は十字架だって平気。髪も瞳の色に合わせてカラーリング。どうせインターネットや仕事で夜中中起きているわけですから、日光に当たらなくったって全然不都合はありません。かえって色白になっていいってもんです。
きれいな女の子やイケメンの男の子は大歓迎です。どなたかボランティアで、吸血鬼マリアに血をわけてくださいません?
参考文献
『吸血鬼カーミラ』レ・ファニュ著 平井 呈一訳
なんともエロティックな雰囲気の古典ホラー。現代の私たちから見ると少しテンポがゆっくりですが、貴族の優雅な生活、ロマンチックな田園風景、レズビアンの女吸血鬼──というモチーフで耽美な世界にひたれます。
エリザベート・バートリー ※リンク切れ
エリザベートについての情報が画像と共に紹介されています。
このブログは2001年07月23日開設のサイト「幻想画廊」を2019年にWordpressで移築したものです。この記事は18年前の、2003年12月09日(火)に書かれました。文章の内容を変えずにそのまま転載してあります。リンク切れなど不備もありますが、どうぞご了承くださいませ。