ダンサーはマラソン・ランナーのようだ。同じことのくりかえしで汗を流す。何時間も何時間も。毎日毎日。
(『パートナー』名香智子 より)
三つの宝
小さい頃、ある人からこんなことを聞きました。
「歌うように一つの楽器を演奏できること、母国語のように異国の言葉が話せること、歩くように自在に踊れること、この三つの宝があれば人生を三倍生きられる」
私はこの三つをなんとか二十歳までにマスターしたいと思っていました。最初の二つはそこそこのできでしたが、ダンスは最も私に向いてるものでした。今回のギャラリーではアルゼンチンタンゴを踊っています。ハンサムな男性のお相手がいないので、私一人で踊らなければならないのが残念。
社交ダンス
私が一番本格的に学んだのは社交ダンスです。社交ダンスの競技種目には、ワルツ、タンゴ、スローフォックストロット、クイックステップ、ウインナワルツのモダン種目五種と、ルンバ、サンバ、チャチャチャ、パソドブレ、ジャイブのラテン五種目があります。他にもブルース、ジルバ、マンボなどたくさんの踊りがありますが、競技会ではこの十種目が競われます。
ダンスの「良い姿勢」とは
「歩くように踊る」と言いましたが、実はこの歩くというのがたいへん難しいのです。いえ、その前に「立つ」ことから始めねばなりません。「良い姿勢をとって」と言われると、慣れない人は背をピーンと反らせた格好をしてしまいますが、これはダンスにおける良い姿勢ではありません。
よく先生に「天井から頭のてっぺんを吊されてストンと降りたのが良い姿勢」と言われました。でもこれをキープするのがなかなかできないんです。ラテン種目、アルゼンチンタンゴなどは前傾姿勢が基本になりますが、やはりきちんと重心を意識しながら立つことが必要です。
ダンス用の体を作る
また女性はヒールを履きますから、膝をのばして美しく歩くことは最初はとても難しいのです。私は社交ダンスを始めて数ヶ月は毎日数時間立つ訓練と、歩く訓練ばかりしていました。ヒールで足はまめだらけ、血だらけになるし、爪も何枚もはがしました。
それでも訓練の成果で、だんだん自由に重心や筋肉をコントロールすることができるようになってきました。一度身体が立ち方、歩き方を覚えてしまうと、今まで上手く動けなかったのが嘘のように感じます。まるで自転車に乗ることができた時みたいです。それからは他のダンスを習っても、割合早くコツをつかめるようになりました。
アルゼンチンタンゴの楽しみ
社交ダンスはだいたいステップをあらかじめ打ち合わせて決めておくことが多いのですが、アルゼンチンタンゴは(ダンスホールで踊るときは特に)その時の音楽に合わせて、男性のリードによって即興で踊ることが多いのです。
アルゼンチンタンゴは五つ、六つのステップしか知らなくても、格好良く踊れます。 私としてはかえって、これみよがしにステップを入れて、テクニックを見せびらかすような踊りは好きではありません。 あわただしい独りよがりの男性のリードには困惑してしまうんですね。
沈黙の会話・ダンス
これって男女の会話と同じです。相手が話を振ったら、粋に答えてこちらからも質問する、相手が上手く返してきたら、「お、やるな!」と思ってさらに話を発展させていく。相手の技量を計りながら、駆け引きを楽しむ……。
ダンスは一言も発しませんが、ステップとリードで楽しむ沈黙の会話なのです。ダンスの上手な男性はモテますが、単に上手く踊れるというだけではなくて、思いやりや、余裕、相手への信頼があるからなんでしょうね。
さあ、みなさん踊りませんか? !Vamos a bailar!
参考文献
『パートナー』名香智子
私は名香智子の大ファンなのですよ。個性的なヒロイン、ゴージャスな衣装、スマートな美青年たち──これぞ少女マンガの王道! 社交ダンスをテーマにしたこの作品は名香智子の代表作。華麗なる名香ワールドをご堪能ください。
このブログは2001年07月23日開設のサイト「幻想画廊」を2019年にWordpressで移築したものです。この記事は21年前の、2002年10月15日(火)に書かれました。文章の内容を変えずにそのまま転載してあります。リンク切れなど不備もありますが、どうぞご了承くださいませ。